第41話 殺人カップルは死闘に身を投じる
魔王が巨躯をしならせて、抉れた大地の破片を弾き飛ばしてきた。
まるで小石のようなモーションだが、我々からすれば大型トラックのようなサイズだ。
命中すればグロテスクなことになる。
私とジェシカは左右に跳んで回避した。
そのまま地上へ落ちかけるも、ジェシカの追加生成した光の床に着地する。
「少し大人しくしてくれ」
私は数十発ほどミサイルを召喚し、魔王の顔面にまとめて浴びせた。
返ってきたのは勇ましい咆哮だった。
爆風を振り払った魔王は怒り狂っている。
ダメージを受けた様子はない。
そもそも十万発のミサイル爆撃に耐えたのだから、これくらいは誤差の範囲だろう。
何か決定打が必要だった。
それも魔王の再生能力を凌駕する一撃だ。
相手は決して不死身ではない。
殺人鬼の直感は、方法次第で仕留められると主張していた。
だから私はジェシカに指示を投げる。
「少し時間を稼いでくれ。その間になんとかする」
「オーケー、任せて」
即答したジェシカは仮面を着けて、周囲一帯に無数の光の床を張った。
様々な高さにばら撒くように配置されたそれらは、数万枚を優に超えるだろう。
ジェシカは光の床を跳んで降りると、真正面から魔王に迫る。
両手の魔術で生み出した光の剣を掴み、ほとんど落下に近い速度で仕掛ける。
大きな眼球に斬撃は、魔王が首を振ったことで阻止された。
さらに魔王は至近距離からカウンターの毒液を飛ばす。
ジェシカはそれを結界で凌ぎながら斬りかかった。
鱗を切り裂かれた魔王は、血を滴らせながら咆哮を轟かせて、強烈な体当たりで反撃する。
両者はほとんど互角の死闘を繰り広げていた。
山のような怪物を相手に、ジェシカは魔術で対抗している。
さらに天性のセンスを駆使することで、絶望的なパワーの差を塗り潰していた。
しかし、それもいつまで持つか分からない。
いくらジェシカが一流の殺人鬼とは言え、魔王はあまりにも強大だった。
一瞬の判断ミスで即死しかねない。
そのような状況に身を委ねられるのは、私を信頼しているからに他ならない。
時間稼ぎをすれば、魔王が確実に死ぬと確信しているからだ。
故に私は本気を出す。
ここで期待以上の成果で応じるのが夫の務めだろう。
外していた仮面を纏い、私は不敵な笑みを湛える。
速まる鼓動は殺戮を渇望する。
地上の戦いを俯瞰する双眸は、熱に浮かされながらも冷たい。
研ぎ澄まされた五感は、暴れる大蛇を獲物として解釈し始めていた。




