第38話 殺人カップルは魔王を爆撃する
空を埋め尽くさんばかりのミサイルは、残らず魔王城に向けられている。
落下せずに静止しているのは、私がそのように細工しているからだ。
召喚魔術を意図的に未完了とすることで、こちらの世界の物理法則の影響を受けないようにしている。
あれらのミサイルは半端に召喚された状態だった。
三次元的な座標が若干ずれている。
今のままだと見かけだけに過ぎないのだ。
ワンアクションで召喚を完了させて落下させることができるが、それまでは如何なる方法でも干渉できない仕様であった。
これが私の隠していた策の一つ――『召喚状態の調整』である。
目に見えていながらも破壊できないトラップはかなり悪質な存在だろう。
相手にプレッシャーを与えることができる。
もちろんミサイル以外でも使用できる特性だ。
したがって様々なことに応用できる。
『どうだ、壮観だろう。一万発のミサイルだ』
『貴様……』
『正々堂々と戦うとは言っていないからね。文句は言わないでくれ』
私は魔王の殺気を受け流す。
ちなみに『召喚位置の延長』も策の一つだ。
本来の召喚魔術は、術者に近い場所のみに適用される。
私の場合は膨大な魔力に任せてそのルールを無視していた。
それなりに離れた地点にも物体を召喚できるようにしたのだ。
『すまないが私は卑怯者なんだ。自由にやらせてもらうよ』
『この――』
魔王が何かを言いかけた。
城の中で魔力の膨らみを感じたので、私は構わず召喚魔術の発動を完了させる。
中途半端な状態だったミサイル群は、正しくこの世界に呼び込まれて自由落下を開始した。
一斉に魔王城へと突き刺さる。
次の瞬間、視界全体を潰さんばかりの閃光が発生した。
魔王城を中心に地面を揺らがす大爆発が炸裂し、土煙を舞い上げながら爆風が起こる。
それがヘリを巻き込む寸前、結界に阻まれて後方へと流れていった。
辺り一帯が爆風の嵐に晒される中、我々の乗る機体だけが無事だった。
「助かったよ」
「これくらい当然よ。私はダーリンの妻なんだから」
ジェシカが誇らしげに言う。
彼女ならフォローしてくれると信じていた。
見惚れるほどに素早い判断である。
私は結界越しに地上を注視する。
未だに続く爆炎のせいで何も見えない。
ちょっとした軍隊でも一掃できるような破壊力だ。
魔王とて無視できない被害ではないか。
「死んだかしら」
「いや、どうせ生きている。追加で撃っておこうか」
これで仕留められたら楽だが、殺人鬼の直感は魔王の生存を確信している。
気を抜けば手痛い反撃を受けるだろう。
だから私は追加で一万発のミサイルを召喚すると、同じ要領で魔王城に叩き込んだ。
それを九連続で実行する。
合計十万発のミサイルが世界の敵を蹂躙するのであった。




