第34話 殺人カップルは力を蓄える
我々は死体を踏みながら移動する。
避けようにも隙間がない。
数十万の死体から立ち込める悪臭は、いっそ清々しいほどに濃厚だった。
慣れていなければ間違いなく嘔吐するだろう。
無論、我々にとっては嗅ぎ慣れたものに過ぎない。
殺人鬼が死体の臭いで吐いていてはやっていられなかった。
(これは魔王軍にとっても大打撃になったのではないか?)
私は辺り一面の死体を見ながら考える。
強大な戦力を保有する魔王だ。
これだけの配下を迅速に動かせるのは感嘆に値する。
しかし、その戦力が皆殺しとなった。
魔王軍の総数は知らないが、無視できる規模の被害ではないと思う。
きっと是が非でも我々を始末しようとするだろう。
ここで退くような存在ではないはずだ。
魔王としての威信をかけて叩き潰そうとするに違いない。
(上等だ。全力で相手をしてやろう)
我々にとっても望む展開であった。
超遠距離から禁呪を打ち込まれて辟易していたのだ。
そろそろ本人に直談判したいと考えていた。
この肉体に残された記憶を漁るも、魔王に関する知識は僅かだ。
種族や能力については判然としなかった。
魔王本人が意図的に秘匿しているらしい。
対策を打たれないように隠しているのだろう。
ドラゴンを配下にするような存在だから、きっと他に類を見ないほどの怪物ではないか。
しばらく進むと、ようやく死体の転がっていないエリアに到達した。
乾いた大地が続いているので歩きやすく、悪臭もかなり改善されている。
私はそれからさらに移動して、手頃なスペースを見つけた。
そこに簡易的なシャワールームを召喚し、お互いの身体を水で洗い流す。
さらに新しい服に着替えた。
私は灰色のスーツで、ジェシカは赤い長袖シャツとズボンだ。
どうせすぐに汚れてしまうだろうが、日常的にファッションを意識するのは大事である。
恰好を整えたところで、歩きながら食事をする。
私は高カロリーのスナックバーを齧る。
今回はチョコ味だ。
口内がやたらと渇くので、ミネラルウォーターも飲んでおく。
いつもはこんな食事をしないが、今は疲労であまり食欲が湧かない。
何も栄養を取らないのは不味いので、こうした食品でカバーしている。
その点、ジェシカは食欲旺盛である。
紙袋に入ったチーズバーガーとポテトを先ほどから豪快に食べている。
冷えたコーラをストローで飲んでは嬉しそうな顔を見せていた。
とても無邪気な姿だ。
彼女がサイコキラーとはとても思えない。
しかしもしここに魔族が現れれば、ジェシカは腰に吊るした鉈をコンマ数秒で振るうだろう。
そのまま相手を真っ二つにするはずだ。
(私の妻に敵う相手なんていないのだ)
たとえ魔王だろうと獲物に過ぎない。
もし不利に陥るようなら、私が全力でサポートするのだから万全である。
第一関門は突破した。
残るはメインディッシュのみと言えよう。




