第33話 殺人カップルは魔王に備える
私は自分の身体を見下ろす。
あちこちがボロボロで、土と砂埃と血と肉片で汚れ切っていた。
みっともない姿には違いないが、ひたすら魔物を殺しまくってきたのだ。
こんな状態にもなってしまうだろう。
幸いにも大きな傷は負っていない。
ただし、全身に軋むような痛みと倦怠感があった。
ジェシカから身体強化の魔術を受けているとは言え、肉体的にかなり無理をしてきた。
その反動がちょうどやってきているのだ。
ここからでも負荷を抑え込んで戦うことも可能だが、辺りに散乱するのは死体ばかりだ。
敵性的な存在は残っていない。
しばらくは身体を休めることもできそうだ。
私は息を吐いて死体に腰かける。
すると向こうからジェシカがやってきた。
彼女の持つカタナソードは途中で折れている。
ピアノ線などは大量の血を吸って太くなって見えた。
「ダーリン、大丈夫?」
「ああ、平気だとも。君こそ怪我はないかい」
「問題ないわ。魔術で全部治しちゃった。やっぱり便利ね」
「それは良かった」
ジェシカが晴れやかな顔で言う。
思う存分に殺し尽くしたことで満足したのだろう。
ただし、さすがのジェシカも疲労が見え隠れしている。
快楽が誤魔化しているが、心身の疲れは蓄積していた。
異世界に転生したことで、我々は凄まじい力を獲得したものの、本質的にはただの人間に過ぎない。
過度な無理は禁物だろう。
「ここで少し休もうか」
「そうね。魔王と戦う前に回復しておきたいわ。向こうも消耗しているだろうけど」
ジェシカは皮肉を込めた口調で述べる。
この三日間の戦いで、何度か魔王からの介入があった。
彼方から禁呪の連打が飛んできたのだ。
あのような術を放てるのは魔王しかいない。
自らの配下を囮に我々を始末しようとしたらしい。
なんとも冷酷だが合理的な戦略だ。
こちらはジェシカの魔術で防御した。
ただし、乱戦の最中なので対処も疎かになり、撒き散らされた瘴気については放置していた。
代わりに彼女は再生の魔術を常に発動した。
瘴気に蝕まれる肉体を強制的にベストコンディションで固定することで対応したのである。
私にも同じ術を施してもらって瘴気の被害を減らした。
そうして気が付けば攻撃も止んでいた。
かなりの数の禁呪が打ち込まれたが、現在は静かなものだ。
さすがの魔王も疲労しているのではないか。
現在は魔力回復に注力しているのかもしれない。




