第27話 殺人カップルは魔王軍を見下ろす
「ほほう、壮観だな。我々のために用意したのか」
「素敵なサプライズね。魔王も気が利くみたい」
我々はにわかに歓喜する。
地上から強烈な殺気が放射されていた。
すべてが魔物達から我々に向けられたものである。
空気を歪ませるほどに獰猛かつ暴力的な気配だった。
素晴らしい。
拍手を送りたいくらい。
これだけの獲物が我々のために集っている。
その心意気に感動しそうだった。
ジェシカも同じような様子であった。
彼女は窓ガラスに顔を張り付かせて、目を輝かせながら地上を眺めている。
まるでクリスマスプレゼントを貰った子供のようだ。
私はざっと魔物の集団を一望する。
それなりに強い個体が混ざっているが、親玉である魔王は不在だった。
本拠地の城からこの地を監視しているに違いない。
(禁呪を防いだ我々を警戒しているのだろう。配下達を捨て駒にして、さらに能力を暴くつもりか)
魔王が狡猾な性格であるのは既に察している。
直接対決の前に、なるべく我々の情報を手に入れようと躍起になっているのだろう。
そのためだけに数十万の部下を犠牲にするつもりなのだ。
あわよくばこの戦力で倒すつもりだろうが、きっと過信はしていないはずである。
自らの勝利のために、この数を切り払う気だった。
魔王のやり口はなんとも合理的であった。
出会い方次第では仲良くできそうな性格をしている。
旅客機で魔物達の頭上を旋回していると、巨人がいきなり岩を投擲してきた。
操縦桿を傾けて回避を試みるも、不自然な軌道を描いた岩は旅客機の後部に炸裂する。
一般客用のエリアがぶち抜かれて機体が失速した。
コックピット内に警告音が鳴り響く。
「ほう」
私は感心する。
おそらく何らかの魔術が岩に作用し、軌道を曲げて旅客機にぶつけてきたのだろう。
なかなかに面白いことをしてくれる。
魔物達も意外と真っ当なコンビネーションができるらしい。
その間に旅客機は墜落を開始していた。
既に操縦が不可能で、地上へと真っ直ぐに突っ込もうとしている。
「ダーリン」
「ああ、分かっているとも。脱出しようか」
私が頷くと、即座にジェシカのカタナソードが閃いた。
コックピットの側面を切断されて、我々は吸い込まれるようにして機体の外へ放り出される。
すぐさまジェシカの生成した光の板に着地した。
少しだけよろめきながらもバランスを取って落下を免れる。
数秒後、旅客機は我々を置いて地面に激突する。
爆発が一部の魔物を吹き飛ばした。
荒れ果てた大地に赤々とした爆炎と黒煙が添えられた。