第23話 殺人カップルは王都を発つ
その後、我々は速やかに王都を出た。
本当は色々と観光したかったのだが、魔王殺害が優先である。
せっかくのターゲットが現れてくれたのだ。
それを無視して呑気に旅するほど、我々もマイペースではない。
大物の誘いはしっかりと乗ってやるべきだろう。
王都についてはまたいずれ戻って来ればいい。
平野に出た我々は、召喚した旅客機で強引に離陸する。
少し面倒だったが無事に成功した。
一定の高度まで飛んだところで、以降は自動操縦に設定する。
こまめに調整してやれば、後は放置で問題ないだろう。
魔王の居場所は分かっている。
地図によると、ここからひたすら北上したところに魔族の支配地があるのだ。
荒廃した土地で、魔王の城もそこにあるらしい。
到着まで空の旅を楽しもうと思う。
「ダーリン、私にもそれちょうだい」
ジェシカがテーブルのカクテルを指差した。
赤と黄色のグラデーションが美しい一杯である。
グラスの縁には、輪切りにしたレモンが添えられていた。
「いいとも。ほら、どうぞ」
私は同じカクテルを召喚してジェシカに手渡す。
彼女はそれをストローで美味そうに飲み始めた。
本当は自分でシェイクして作るのも良いが、さすがに操縦席を離れるのは不味い。
ここは異世界の空だ。
いつ何が起こるか分からない。
空を飛ぶ魔物も多いそうだから、なるべく見張っておいた方がいい。
カクテルを飲みながらジェシカが言う。
「交渉役の魔族を殺したって知ったら、魔王はどんなリアクションをするのかしら」
「きっと怒るんじゃないかな。我々を殺そうとするだろうさ」
「フフ、それは楽しいわね。早く会ってみたいわぁ」
ジェシカは嗜虐心に満ちた顔で笑う。
本気で魔王を殺すつもりなのだろう。
あまり他人のことは言えないが、愛する妻はなかなかに豪胆である。
いつも自信に満ち溢れており、だからこそ美しい。
彼女の隣にいられることが、私にとって最大の自慢だろう。
(パートナーから夫になったのだから、私もさらに気を引き締めねばなるまい)
ジェシカに並ぶ男として相応しくあろう。
それこそが私自身の幸福にも繋がる。
彼女にもそう思ってもらえるように努力せねば。
改めて決意したところで、私は前方の異変に気付く。
「ん? あれは……」
青い空を遮るように、紫色の何かが浮遊している。
だんだんと大きくなるそれは蠢いていた。
注目した私は無表情になる。
数千にも及ぶ紫色の手が、雪崩れるように迫っていた。