第18話 殺人カップルは魔族と対話する
魔族は呆然としていた。
口を半開きにして停止している。
私の言葉が理解できていないらしい。
たぶん信じ難い反応だったのだろう。
きっかり十秒後、魔族が顔を真っ赤にして殺気を爆発させた。
「この、人間風情が……ッ!」
「ほほう、激昂して仕掛けてくるかね。こうして我々のもとに来たのだから、何らかの目的があると思ったのだが。君の上司に怒られてしまうのではないかな」
なぜ魔族がここを現れたのかは知らないが、私達に接触してきた点から察するに何らかの用件がある。
もし抹殺が目的なら、上空から問答無用で仕掛けることができたはずだった。
自己顕示欲に塗れた愚か者や、騎士道精神に凝り固まった頑固者でない限り、わざわざ地上に降りてくる意味はない。
ゴディ何とかというこの魔族は魔王軍に属するらしい。
誰かに命令されたとすれば、おそらく魔王になるのではないか。
以上が私の推論だった。
魔族は悔しげに睨み付けて、膨れ上がった殺気を抑制する。
霧散したばかりの理性が戻ってきた。
彼は息を整えて咳払いする。
「話は、分かるようだな」
「理性的に生きるのがモットーなんだ」
私は両手を広げながら応じる。
小刻みに震えるジェシカを横目で確かめつつ、周囲にも意識を向けた。
通りを行き交う人々はパニックになって逃げ惑っていた。
魔族の襲来で恐怖に陥っているようだ。
騎士は駆け付けて来ないのだろうか――そういえば我々が殺戮したのだったか。
僅かな生き残りもここへ来る余裕はないだろう。
傭兵らしき人間も逃げている。
魔族は一般人が勝てる相手ではないのだ。
そんな魔族は尊大な口調で命じてくる。
「単刀直入に言う。魔王軍の傘下に入れ」
「それは誰の指示かな」
「魔王様だ。お前達の行動を見て判断されたのだろう」
「ふむ、そうか」
予想通りだった。
これは愉快な事態になってきた。
魔王は我々が密かにターゲットの候補として挙げていた存在である。
世界征服を企む怪物のボスだ。
(いつの間にか監視されていたのか)
仲間に誘ってきたということは、我々の暴走を気に入ったらしい。
そう判断されるのも当然だろう。
大勢の兵士を殺戮し、ミサイルで教会を粉砕した。
魔族の手先と言われたら、まあ頷いてしまう凶行だと思う。
無論、特定の思想や罪悪感はない。
(魔王は傷を負って休眠中だと聞いていたが……)
私はノドルの知識を引っ張り出す。
魔族の言葉が嘘でないと仮定した場合、魔王は水面下で動き出している。
本調子ではないとは言え、徐々に活動を再開しているのではないか。
人類にとってはなかなかの悲報に違いない。