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第17話 殺人カップルは来訪者と出会う

 その後、我々は購入した衣服に着替える。

 私はモノクロの洒落たスーツだ。

 そこにホルスターや隠しポケットを装着して、いくつもの武器を携帯しておく。


 異世界は危険なことばかりだ。

 いつ命を脅かされるか分かったものではない。

 こういった用心深さは必要だろう。


 ジェシカは真紅の情熱的なドレスを選んだ。

 スカート部分にスリットが入っている。

 動きやすさを優先した構造である。

 元は無かったスリットだが、ジェシカが店員にオーダーして調整してもらったのだ。

 隙間から覗く太腿にはナイフを装備していた。


「おや」


 会計をしていると、私は一つの異変に気付く。

 特殊な能力で察知したのではない。

 前世で積み上げた経験による直感であった。


 私の声を聞いたジェシカが不思議そうにする。


「どうしたの、ダーリン」


「招かれざる客だ。君も分かるんじゃないかな」


 私に促されたジェシカも集中する。

 二秒後、彼女の頬に笑みが浮かんできた。

 嗜虐と惨殺を期待する美しい笑みだ。


「――そうね。お店を出ましょ」


「賛成だ。良い店が潰れてしまうのは惜しいからね。私はリピーターになるつもりだというのに」


「そんなに気に入ったの?」


「ああ。一流を取り扱う店は好きなんだ」


 私がそう言うと、ジェシカは嬉しそうに手を打った。


「ダーリンったら優しいのね」


「はは、サイコキラーに向ける評価ではないな」


「最愛の夫に向けただけよ」


 そんな風にやり取りしながら店を出る。


 通行人が上空を指差して騒然としていた。

 青空に切れ目ができて、そこから漆黒の魔力が溢れつつある。

 禍々しい気配がこちらに這い出ようとしていた。


「どちらがやる?」


「タッグを組みましょ。夫婦の共同作業よ」


「それはいい。一緒に頑張ろうじゃないか」


 私は二挺のリボルバーを両手に召喚する。

 ジェシカは血の付着した剣を構えた。

 燻る衝動が高まり、ある種の期待へと転換されていく。


 やがて漆黒から異形の怪物が現れた。

 筋骨隆々な肉体は黒い毛に覆われており、頭部は牛のようだった。

 ミノタウロスと呼ばれる創作上のモンスターに近いが厳密には違う。


 あれは、魔族と呼ばれる存在だった。

 強力な力を秘めた人類の天敵である。


 地上に降り立った魔族は、腕組みをして我々を見下ろす。

 かなり巨躯だ。

 自動車くらいなら投げ飛ばしそうな迫力があった。

 そんな魔族がジェシカに問いかける。


「狂った聖女とは、お前のことだな?」


「どうかしら。クレイジーとはよく言われるけど」


 ジェシカが気軽に答える。

 魔族の顔に苛立ちが浮かぶも、なんとか抑え込んだ。

 次に私へと質問を向ける。


「同行者の召喚術師とはお前か」


「私はただの殺人鬼さ。大層な名前が付くような人間じゃない」


「……ふざけてるのか?」


「好きに解釈してくれて構わないよ。ところで用件は何かな」


 私はリボルバーを回しながら訊き返す。

 すると魔族は得意げに口を開く。


「俺様はゴディレアス。魔王軍幹部第三将軍の――」


「待ってくれ。名乗りは必要ない。私は、用件を尋ねたのだが? 君の身分に興味はないのだよ」


 遮った私は魔族に告げるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界は危険なことばかりだ。  いつ命を脅かされるか分かったものではない。 あんた達カップルに出会う方が命の危険度が高いんだが。
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