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第16話 殺人カップルは吟味する

 全身の汚れを洗い落とした我々は、ひとまず召喚したジャージを着て店内に戻る。

 数人の店員が室内を駆け回っているところだった。

 中央のテーブルにいくつもの衣服が積み重ねられている。

 大急ぎで我々のオーダーをこなそうとしているらしい。

 律儀かつ真摯な対応が嬉しくなってしまう。


 私は店員の一人に声をかける。


「候補は挙がったかね」


「はい、いくつかご用意しました」


「ご苦労。さっそく見せてくれ」


 私とジェシカは、店員から衣服を紹介してもらう。

 具体的なリクエストは何も伝えていないため、様々なコンセプトの衣服が用意されていた。

 機能性を重視した旅人風の装束から舞踏会に出られるような正装等まで揃えられており、かなり幅広いラインナップである。


 私は一つひとつを着てみながら頷く。


「素晴らしい出来だ。偶然立ち寄ったが良い店だね」


「光栄です」


「ふむふむ。迷ってしまうから全部買わせてもらおうかな。金はあるから安心したまえ」


「お買い上げありがとうございます」


 せっかく見繕ってくれたのだ。

 金に余裕はあるのだから残らず買えばいい。

 様々な用途の服があって困ることはない。

 収納能力を持つバッグがあるので、苦も無く持ち運びが可能だった。


 ジェシカにも意見を求めたところ、彼女は全部欲しいと即答された。

 何度も聞いたセリフなので予想はできていた。

 ショッピングの時、ジェシカは何か一つを選ぶのが苦手なのだ。


「ちなみに靴はあるかな。取り扱っていなければ、お勧めの店でもいいのだが」


「こちらで取り扱っております。品数はそこまで多くありませんが」


「構わないとも。少し見せてもらうよ」


 私は店員の案内で靴も吟味する。

 サイズを確かめながら何足か購入した。

 さすがにスニーカー等はないが、履き心地の良いブーツや、魔術効果を付与された靴があった。

 面白いのでサイズが合う分は残らず買っておいた。


「ところで、我々を見て何も問おうとは思わないのかね」


「お客様の望む商品を提供するのが、我々の務めですので……」


「賢明なことだ。君は長生きするタイプだろう」


 店員に向けて告げていると、ジェシカが私の頬を引っ張ってきた。

 加減はしているようだがかなり痛い。


 私は努めて冷静に問いかける。


「何だね」


「私のことだけを見て」


「もちろんだとも。夫として当然のことだ」


 私が飄々と応じると、ジェシカは深々とため息を吐く。


「ダーリンはモテるから困るのよねぇ……」


「そんなことない。殺人鬼に惚れるような人間は少数派だと思うよ」


「じゃあ私は何なのかしら」


「君は同類――立派な殺人鬼だろう」


「アハハ、そうだったわね」


 ジェシカは明るく笑って、私の胸に飛び込んできた。

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