第14話 殺人カップルは城下街を散策する
その後、十分ほどかけて徒歩で移動した我々は大きな通りに出る。
一般市民がたくさん行き交っており、露店なども設けられているようだった。
ここがどうやら王都のメインストリートにあたるらしい。
にぎやかな光景を目にした私は、嬉々としてその中に踏み込んでいく。
もちろん隣にはジェシカも一緒だ。
マナー違反だと思ったので、リボルバー等の武器は仕舞う。
「なかなか活気溢れる街並みじゃないか」
「ショッピングにも向いてそうね」
「ああ、そうだね。金はあるから豪遊しよう」
背中のバッグに入れてある金は相当な額である。
ここでどれだけ浪費してもまず使い切れないだろう。
武器は召喚魔術で補充できるので、基本的に生活費や娯楽に使うことになりそうだ。
もし底を尽きそうになったら、またどこかで奪えばいい。
元の世界でも我々はどうやって生きてきた。
他人を蹴落として自らの利益とする。
弱肉強食の手本のような生き様だったと言えよう。
仲睦まじく歩く我々に対し、周囲の人々は怪訝そうにしていた。
血だらけの姿を見て不審がっているようだ。
いきなり逃げ出したりしないのは、我々が殺気を出していないためか。
王城での騒動はまだここまで届いていないらしい。
もし我々の素性と悪行が知れ渡っていれば、とっくにパニックになっているはずだ。
一般市民の様子を観察していると、私は妻の異常に気付いた。
青い顔でぶつぶつと独り言を洩らしている。
私は小声でジェシカに告げる。
「我慢は身体に毒だが、ここは耐えてほしいな」
「分かっているわ。私だって抑えられるもの」
ジェシカは爪を噛みながら言う。
彼女はじっと地面だけを睨んでいた。
現在、ジェシカは殺戮衝動に襲われている。
王城であれだけ暴れまくったせいで、その余韻が響いているのだろう。
中途半端に時間が経ったせいでぶり返してきたようだった。
じろじろと周囲から見られているのも原因の一つに違いない。
寸前のところで殺気は出ていないものの、ほんのちょっとした刺激で爆発するのではないか。
そうなれば通りは死体に溢れた地獄絵図と化するだろう。
ここで殺戮が始まると、せっかくのショッピングが台無しになってしまう。
私が止めるしかないが、それまでに何百人もの犠牲が出る気がする。
できれば事前に阻止したいものだ。
私はジェシカの頭を撫でて、彼女に愛を囁きかける。
頬を染めたジェシカはうっとりとした顔で囁き返してきた。
衝動は若干ながら軽減されたようだ。
しかし、これも応急処置に過ぎないので油断できない。
そのようなことを考えていると、近くの男が話しかけてきた。
彼は心配そうに我々に近付いてくる。
「ど、どうしたんだ。怪我をしている、のか……?」
「ただの返り血だ。気にしなくていい」
「私達のデートを邪魔しないでくれるかしら」
ジェシカが手元の剣に指を這わせたので、さりげなく止める。
周りが気付いていないのが幸いだった。
私はジェシカの背中を押して早足で移動を続けた。
声をかけてきた男には申し訳ないが、彼にとっても正しい判断だったろう。
私は苦笑いしながらジェシカを嗜める。
「彼は善意で気遣ってくれたんだ。ああいう言い方は良くないと思うよ」
「ごめんなさい。ちょっと気が立っているみたい」
ジェシカは恥ずかしそうに言う。
少しだけ反省しているようだが、目は腰元の剣を凝視していた。