第12話 殺人カップルは城を出る
気まぐれにリボルバーを弄っていると、ジェシカが戻ってきた。
彼女は全身が血みどろだが、おそらくそのすべてが返り血だろう。
基本的に彼女が負傷することはない。
ジェシカは執事の死体を見て首を傾げる。
「ただいま……って、何かあったの?」
「粋なプレゼントを貰ったんだ。それなりに満足できたよ」
私は微笑して答えると、彼女の手元を指差した。
「君こそ面白い手土産を持っているね」
「そうなのよ。すれ違った時にやっちゃった」
ジェシカは片手を上げて苦笑する。
その手には国王の生首がぶら下がっていた。
頭髪を掴んで持ち歩いてきたらしい。
断面から垂れる血痕が彼女の歩いてきた道を示している。
(……大人しく退散するとは言ったが、生かす約束はしていないからな)
部屋から逃げた国王は、暴走するジェシカと鉢合わせになったのだろう。
そして為す術もなく殺されてしまったらしい。
痛みを感じる前に死ねたことが唯一の救いだろうか。
私から見逃してもらえたというのに、ジェシカに出会ってしまうとは災難なものである。
ため息を吐いた私は生首を指して尋ねる。
「記念にテイクアウトするかい?」
「必要ないわ。どうせすぐに腐るし」
そう言ってジェシカは、国王の生首を窓に向かって投げ飛ばした。
生首はガラスを突き破ってすぐに見えなくなる。
どこに落ちたか知らないが、見つけた者は愕然とするだろう。
そのリアクションを確かめられないことを残念に思いつつ、私はバッグを取り上げた。
大容量の収納機能を持つそのバッグに金を詰め込み始める。
物理的にありえないことだがしっかり収まってくれた。
魔術的な効果で見かけ以上のスペースがあるようだった。
「さて、用事は済んだ。そろそろ出ていくとしようか」
「そうね。街の観光もしたいわ」
我々は共に部屋を出る。
数秒もせずに兵士が現れたので、リボルバーの連射で残らず額を撃ち抜いた。
死体の間を歩いて進む。
「騒がしいな。まだ我々に歯向かうとは大したガッツだ」
「元気でいいじゃない。嫌いじゃないわ」
「おいおい、妬いてしまうな」
苦笑いする私は召喚したダイナマイトを階下に投げる。
階段下に待機していたらしき兵士の断末魔がここまで届いた。
壁に血飛沫のアートが描かれている。
「安心して。もちろんダーリンが一番よ」
「それは良かった。君は私を振り回すのが得意だね」
ジェシカの刃物が舞う。
そのたびに兵士の首が飛んだ腕が飛んだ脚が飛んだ内臓が飛んだ。
何もかもが切断されて解体されて斬り伏せられていく。
「ダーリンだって私を夢中にさせるのが得意よ」
「愛する妻だからね。心血を注いでいるとも」
「まあ、嬉しいわぁ!」
反射させた銃撃が連続で五人の兵士を貫いた。
綺麗にカーブした弾丸は、我々の鼻先すれすれを通過して屋外へ消える。
「さっき部屋に倒れていた死体だが、なかなかの強者だったよ。この世界には我々を楽しませられる人間がたくさんいるらしい」
「それは朗報ね。ここの兵士は物足りなくて不満だったの」
「ふむ。確かに練度はあまり高くないようだ」
きっと我々の求める水準が高すぎるのだろう。
そう思いながら手榴弾を後ろに放り投げる。
炸裂した爆発によって、奇襲を試みる暗殺者がミンチと化した。
「ところでカタナソードはどうしたんだい?」
「ごめんなさい、途中で折れちゃったの。だから置いてきてしまったわ」
現在のジェシカが使う武器は、兵士達の剣だった。
先ほどから壊れては拾うのを繰り返している。
「気にすることはないさ。いくらでも召喚できるのだから。ご要望とあれば、何万本でも用意しよう」
「まあダーリン! とてもかっこいいわ!」
「はは、そうだろう。何と言っても君の夫だからね」
胸を張る私はロケットランチャーを発射する。
封鎖された壁に穴が開いて、向こう側に転がる死体が露わとなった。