第11話 殺人カップルは大金を得る
およそ五分後、執事服を着た老人が台車に載せた大金を運んできた。
大量の貨幣のそばには、妙な質のバッグも置かれている。
「ご苦労。それなりの額だね」
「国内における子爵の平均資産……その二割にあたります。こちらの収納の鞄に入れることで持ち運びにも困らないかと」
執事は恭しい口調で述べる。
銃を向けられた状態でも慌てることはない。
国王の側近らしいが、相当な手練れなのだろう。
負傷した国王を見ても動揺の欠片すら見せなかった。
ちなみに蚊帳の外になった国王はと言うと、出入り口の扉から逃げ出すところだった。
執事が私と話す隙に抜け出そうと考えていたのだろう。
別に追いかけても構わないが、それだけの価値すらない。
私は台車の大金を見て頷く。
「悪くないな。これで当分は――」
その時、執事が唐突に動き出した。
台車を軽々と飛び越えると、袖からナイフを射出してきた。
無色透明だが刃先が濡れている。
(毒か)
私は半身になって躱す。
ナイフがそばを通過していった。
直感だが掠めるだけで死んでいたような気がする。
初撃を避けられた執事が強引に接近してくる。
その手には金属製のステッキが握られていた。
特殊警棒に近い形状で、表面に魔力を纏っている。
見た目以上の破壊力があると考えた方が良さそうだ。
バックハンドで放たれたステッキの打撃に対し、私は上体を反らして回避した。
そこから腰だめでリボルバーを連射する。
至近距離からの銃撃を、執事は凄まじいスピードで回避した。
私の側面に回ると、今度はステッキの刺突を打とうとする。
しかし、その顔に微かな苦痛と驚愕が浮かんだ。
追撃の動きは若干ながら鈍る。
執事の脇腹から血が滲み、衣服に滲むところだった。
私の放った弾が反射し、背後から執事を襲ったのである。
黒銀騎士を倒したのと同じ手だった。
私が相手の不意を突くのに用いる恒例の攻撃であった。
「くっ……」
執事が顔を歪めるも、構わず刺突を強行してくる。
体内を弾丸に掻き混ぜられながらも、私を抹殺する気らしい。
(大した精神力だ)
感心する私はリボルバーの銃口で刺突を弾く。
衝突の際、銃身が大きく歪むのが見えた。
私はもう一方の手に小型のショットガンを召喚すると、装填された二発を撃ち放つ。
散弾を食らった執事は吹き飛んで転がった。
気品のあった衣服はズタズタに引き裂かれている。
血肉が剥き出しとなり、破れた内臓がはみ出そうとしていた。
「…………」
執事が憎々しげに私を睨み、その口が何かを吹き出した。
飛来物を察知した私は、召喚し直したリボルバーの早撃ちでガードする。
甲高い音を立てて跳ねる火花。
床に突き刺さったのは超小型のナイフだった。
口内に隠していたのだろう。
「すまないね。私とて近接戦闘には慣れているんだ」
銃使いであるためか、私は距離を詰められるのが苦手だと思われがちだった。
実際にやりづらい間合いだが、だからこそ対策くらいは打っている。
ジェシカほどではないが動けるようにしていた。
相手の攻撃を見切るだけの動体視力や反射神経も兼ね備えている。
跳弾を始めとする特殊技能も習得し、近接戦に合わせた銃の扱いも可能だった。
一応、軍用格闘術も身に付けているので、銃を使わない戦いもできる。
もっとも個人的には不向きだと思っているし、あまりスマートではないのでなるべく避けたい戦い方だ。
ジェシカほど特化すると芸術の域に達するのだろうが、生憎と私の領分ではなかった。
「とにかく、相手が悪かったね。不運だったと思いたまえ」
瀕死の執事にリボルバーを向けて発砲する。
無慈悲な弾丸によって執事の頭部が砕け散った。
脳漿を散らした彼はそれきり動かなくなる。