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第10話 殺人カップルは悪逆を尽くす

 私は椅子に腰かけながら片手を掲げる。

 召喚魔術を行使すると、紅茶入りのティーカップが出現した。

 香りを楽しみながら一口飲む。


 布を引き裂く音がした。

 何事かと思って見ると、国王がマントの切れ端で脚を縛っている。

 即席ながらも止血処置を施そうとしているらしい。


 泣きそうな顔だが必死だ。

 自分の出血量を見て死を予感したのだろう。


 私はその姿を眺めながら声をかける。


「命の危機に瀕する心境はどうだね。あっけないとは思わないか」


「……もう、放っておいてくれ」


「いけないなぁ。コミュニケーションは相互の信頼で成り立つものだよ。放棄するのは感心しないね」


 ティーカップを捨てた私はリボルバーの撃鉄を起こす。


 国王はその音を聞いて手を止めた。

 彼は情けない声を上げて悲鳴を上げてひっくり返る。

 穴の開いた片脚を庇いながら、必死に後ろへ下がろうとしていた。


 私は苦笑いしながらリボルバーを下ろす。

 まだからかいたいが、やりすぎると国王の寿命が縮まりそうだった。


 私はマントを結び直す国王に話しかける。


「突然だが我々に資金援助をしてくれないかな。新婚旅行をするにあたって必要なんだ」


「まさか、そのために来たのか……?」


「目的の大部分はそうだね。王に挨拶してみたいとは思ったが」


 国王と謁見する機会なんて滅多にない。

 せっかく王都に来たので顔を拝んでおこうと閃いた次第である。

 ついでに金が貰えれば上々という考えだった。


 召喚魔術を使えば物質面で困ることはまずないが、魔術ばかりで済ますのはナンセンスだろう。

 あらゆる楽しみを潰してしまうことになる。

 必要に応じて使うつもりではあるものの、直接的な資金調達は別の手段を用いる方がいい。


 前世でやったような強盗で稼ぐ手もあったが、王都には国王がいる。

 挨拶ついでに金銭を要求するのが手っ取り早い。

 何より我々が楽しい。

 それが一番だろう。

 でなければ殺人鬼などやっていない。


「それなりに蓄えはあるはずだ。ほんの少しだけ我々に提供してくれればいいのだよ」


「金を渡せば、出ていくのか?」


「ああ、大人しく退散しよう。どうやら我々は歓迎されていないようだからね。悲しいものだよ」


 私が意地の悪い笑みを見せると、国王が息を呑んで凍り付く。

 その目がリボルバーを注視していた。

 脚の痛みも忘れて硬直している。

 私の殺気を感じ取ったらしい。


「国王暗殺も一興だが、今回はその気分じゃない。幸運を喜びたまえ」


「……こ、の」


「悔しいだろう。当然の感情だとも。しかし、それをぶつけるには力不足だ。無駄に死にたくなければ従順になるべきだよ」


 私は怒りを見せる国王に忠告する。

 それだけで彼は動けなくなった。


 私は椅子でくつろぎながら指示を告げる。


「とりあえず金を用意してくれ。ここで待たせてもらうよ」


「そ、その前に脚の治療を」


 国王の言葉を遮るようにリボルバーを発砲する。


 弾丸は国王の無事だった右脚を貫通した。

 太腿の真ん中だ。

 骨が砕けたことだろう。


 リボルバーから昇る硝煙を見ながら、またもや転げ回る国王に優しく問いかける。


「次は右手だ。それとも左手がいいかな」


「用意、する! すぐに用意するっ! だから、少し、待てっ!」


 国王が喚く。

 彼は両手で身体を引きずると、端の壁に設けられた箱型の魔道具に縋り付いた。

 そこに付いた受話器のようなものに話しかける。


 おそらくどこかに連絡を飛ばしたのだろう。

 配下に金の手配を任せたのか。

 もしかすると増援でも頼んだのかもしれない。

 その時は殺すだけなので何も問題は無かった。


「キャハハ、ハハハッ!」


 階下から妻の声がする。

 殺戮をしっかりと満喫しているようだ。


 私は連絡をする国王の背中に声をかける。


「急いだ方がいい。私は別に待てるが、妻はそうもいかないようだ」


「ぐ、く……ッ!」


 国王は悔しげに呻いて、早口で指示をする。

 私はそれを優雅に眺めるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第10話到達、おめでとうございます! [気になる点] 主人公カップルが復活したこの世界においても、 何が起こったか真相究明に動いている有力者や組織があると思いますが、 その者達が人の身で知…
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