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悪役令嬢ネットワーク! 私をフォローしたのはもうひとりの私!?

作者: アトハ


 私、ユフィリアはタイムラインをひたすら監視していた。

 これが生き甲斐なのである。


リリアンヌ@庶民になりたい @Liliannu 2分

「婚約破棄キターーーー(゜∀゜)!」


 そこに突如として流れてきたのは、顔文字とともに流れてきた喜びの声。

 

「良かったじゃない」


 昨日から、気にかけていたリリアンヌ嬢の歓喜の呟き。 

 なんでもリリアンヌ嬢は、婚約破棄イベントを間近に控えていた絶体絶命の立場にいたはずで。

 しかし変わり者の彼女は、むしろその運命を喜んで受け入れたらしい。


ユフィリア@永遠の暇人 @Yufilia 8秒

『@リリアンヌ ついにやったのね! おめでとう!』


 私は、すかさずこう返信した。


 婚約破棄おめでとう……?

 ちょっと意味が分からないが、本人が喜んでいるならそれで良い。

 私は悪役令嬢の皆さまの幸せを望んでいます!


リリアンヌ「@ユフィリア さすがの悪ッター廃人! ドン引きするレベルのレス速度ね!」


 リリアンヌを名乗るユーザーから、とても失礼な返信が帰ってくる。


ユフィリア「@リリアンヌ  悪ッター廃人で何が悪いの!

 悪ッターは、全悪役令嬢に認められた現実逃避の権利よ!」


 悪役令嬢ネットワーク、別名【悪ッター】は、この世界にあらざる「悪役令嬢」と繋がるためのSNSである!

 参加者は乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生した人物全員!

 運営者は分からないが、これまで黙って破滅を迎えるだけだった悪役令嬢の命をつないできた、悪役令嬢の悪役令嬢による悪役令嬢のためのアプリなのである!


リリアンヌ「@ユフィリア 真面目な話、感謝しているわ。これで晴れて自由の身よ!」


ユフィリア『@リリアンヌ 良かったと思うわ。あんたが王妃になったら国が亡ぶ』


リリアンヌ「@ユフィリア どういう意味よ!?」


 そのままの意味よ、文字には起こさずボソッと呟く。

 これでも、私はリリアンヌが王妃になりたくないbotになっていたころからずっとを見守ってきたのだ。

 リリアンヌが決して王妃に向かない性格であることは疑いようもない。


 それでも、今は友人の婚約破棄を喜ぶべきだろう。

 これ以上のやり取りは不毛である。


ユフィリア『@リリアンヌ リリアンヌさんが、しっかりとヒロインを攻略していたおかげね!

 味方を作っておくのは何よりも大切ですもの!』


リリアンヌ「@ユフィリア 攻略って言うなし!」


 区切りを迎えてテンションが上がっているのだろうか。

 珍しく、リリアンヌが悪ッターに入り浸っている。

 普段なら「こんなところ見てても、時間の無駄」としか言わないのに。

 


 

エミリア@鬼のマナー講座 @Emii

「@リリアンヌ @ユフィリア お、暇人コンビなの~~ 元気してたの~?」


エリーシア@戦場 @Elii_kaeritai

「@リリアンヌ 問題片付いたみたいで羨ましい! 帰りたい、帰りたいよ!」


 悪ッターを通じて、祝い・羨むようなリプライが、リリアンヌへと届く。

 『暇人コンビって何よ!?』というリリアンヌの声なき叫びが聞こえるようだ。


 だが、そんなことよりも――



ユフィリア『@エリーシア どうして戦場にいるの!?』


 気になるのは@(アットマーク)の後に付けられたステータスの中身である。

 悪ッターでは、ユーザーネームは変更することができず、ユーザーが自由に弄れるのは後の「ステータス」を現す単語だけである。

 つまり、「@戦場」という言葉は、エリーシアが付けたものだ。


「王子が紛争地帯に向かって、メインヒロインもそこに向かったからよ!

 昨日まで宰相の息子のフラグ立ててたじゃない。

 ケッ、逆ハー狙いなんて……。間違いなく中身いるわね」


「それで、妨害しているんですね……?」


 ヒロインが逆ハールートを順調に攻略中、と。

 状況あまりよろしくないように見えるけど、大丈夫なのかしら?


 そう尋ねると『よゆー! よゆー!』とのこと。

 魅了の魔法の証拠はきっちりと抑えているとかなんとか。

 

 悪ッターのおかげで、転生系メインヒロインへの対抗策のノウハウもずいぶんと整ってきたものだ。



エリーシア@お風呂に入りたい @Elii_kaeritai

エリーシア「@ユフィリア そんなことよりも!

 あなたこそ、いつ見ても悪っターにいるけどリアルは大丈夫なの?」


ユフィリア『@エリーシア まあ戦場に行ったりはしていないけど、順調よ』


 「@戦場、とか付けた構ってちゃんかよ」「じゃあ外すわよ!」なんてやり取りののち、しれっと更新されたステータスページをよそに、悪ッターでの会話は続く。


 『そうよ、これであなただけ破滅したなんて笑えないわよ』とリリアンヌ。

 人を気にする余裕が出てきたのだろう。


 "私、ユフィリアはおおよそ24時間、休むことなく常に悪ッターに張り付いている!!!"


 完璧なエゴサーチ力!

 完璧なる滞在時間!!


ユフィリア『自分のことを後回しにして、みんなにアドバイスして回るほど、私は出来た人間ではないわ』


 バレたら怒られるわね、と独りごと。

 私の居場所は、この悪ッターなのだ。

 リアルなんて知ったことではないのだ。


リリアンヌ「大丈夫だとは思ってたけど、無事に終わると落ち着くわね。

 今日はもう寝ます、みんな本当に今までありがとうね!」


エリーシア「@リリアンヌ おやすみ、いつになくgg」


リリアンヌ「@エリーシア 大丈夫!?」


エリーシア「あっぶね、魔法の流れ弾が飛んできやがった、あの兵士あとで絞める」


リリアンヌ「あなたのゲーム、そんなに危ない場所だったの!?」


 あ、ログアウト。

 まあアカウントが残っているので生きてはいるだろう。

 エリーシアにはどうか強く生きて欲しい。


 これは、悪ッターでの日常のほんのひとまく。

 悪役令嬢が集う、そんなほのぼのした日常の一幕で。


ユフィリア「それではみなさんお休みなさいませ」


 そんな一言でやり取りは終了する。

 

「……まあ、私はずっとここにいるんですけどね」


 ここだけがリアル。

 私には、ここしかない。

 だって――


 "私はどのゲームに生まれたのか分からないのだから"


 そう、私にはリアルがない。

 この文字だけが並ぶ無機質な空間に、私は生きている。

 







【ユフィリア@悪役令嬢さんにフォローされました】


ユフィリア@悪役令嬢 @Yufilia

@ユフィリア そろそろ返して。私のアカウント



 リプライが届く。


 「これは……私?」


 これは何でしょうか? 

 悪ッターでは、他人の名前を名乗ることはできないはずです。

 それにも関わらず、このユーザ名。

 方法はわかりませんが、タチの悪いいたずらです。

 

ユフィリア「@Yufilia 何のつもりですか? あなたは誰ですか?」


 通知がくる。

 自分宛。発信者は――自分。


 相手のアカウントに対してリプライを送り、受け取ったのは自分。


ユフィリア@悪役令嬢「@ユフィリア 気が付いてるよね。私はあなた」


 乙女ゲーム『メロディア・ナイン』で、ちゃんと務めを果たしてきた悪役令嬢。

 もう良いでしょう? ここでさんざん遊んで。

 遊びほうけてさ!

 

 ――満足したでしょ?


 まだまだ、遊びたりないよ。

 私も、それにみんなも。


 ――だから、返してよ。


 悪役令嬢ネットワークの管理者は私。

 あなたに、悪ッターを管理できる?


 ――悪役令嬢ネットワーク。

   世界中の悪役令嬢にコネクションを繋げる神様の力。


 ――それなのに、生まれたのが、こんなツイ●ターみたいな空間。

   こんなんでは、必要な情報はいきわたらない。

   そんなんじゃ、破滅は回避できない!


 そうかもね。

 でも、悪ッターのおかげで助かった人だっていっぱいいる。

 心の支えなんだ、ここは。


 ――チャットのやりとりで、仲良しごっこ?

   ここの在り方は間違ってる!

   だいたい、神様の力をもらっておいて、こんな使い方。恥ずかしくないの?


 ここの在り方を変えるつもりはないよ。

 あなたも、ここにいればノウハウを聞ける。

 現実世界のあなたの助けにもなれる。


 ――返して、私のアカウント


 ――神様チートもない私じゃ、今までほどの規模のネットワークは維持できない

   でも、構わない。有益な人だけ残せば十分


 ――あなたは、いらない。

   神様チートにかまけて、ひたすら悪ッターにこもってたあなたには

   ここの、管理者たる資格はない!


 いいえ。ここは必要な場所です。

 この世に存在する、悪役令嬢たちの憩いの場。

 そして、救いのみちしるべ。


 私は、どんなことをしてでも。

 管理者としてどんな手を使ってでも。


 この場所を守りますよ。




ユフィリア@悪役令嬢 @_Yufilia

「そう。本気でやりあったら、神様の力には勝てないだろうしね

 分かった。仕方ないね」


ユフィリア「@_Yufilia 現実のことは、ごめんなさい」


 原理は分からない。

 アカウントが分裂したのだろうか?


 しかし、『現実のユフィリア』のアカウントが、私のものとは別に作られたということは、彼女と私は別人となったということで。

 彼女が、私の権限を狙うことはもうないという証なのだろう。


Yufilia_「@Yufilia それに、これからは悪ッターでいつでも相談もできるんでしょう、管理者さん?」

 

 悪役令嬢ネットワークは、これからも続いていく。

 1人でも多くの悪役令嬢の心を癒すため。

 そして、1人でも多くの悪役令嬢を救うため。


 現実世界の私(もう1人の私)も例外ではない。


Yufilia「@Yufilia_ 任せておきなさい。悪ッターの力、とくと見せてあげる」


 自信満々の私の前をとある文字列が通過していく。




エミリア@鬼のマナー講座 @Emii 16分

「い~~や~~~~~~ マナーの追試とかい~~~や~~~~~~~」


リリアンヌ@念願の庶民 @Liliannu 11分

「王子ざまぁぁぁぁぁ」


エリーシア@激おこぷんぷん丸 @Elii_kaeritai 9分

「戦場、怖い」

「もう帰って良い?」

「破滅回避とかどうでもよくない?」

「国外に逃げよう?」



Yufilia「@Yufilia_ ダメかもしれない……」

少しでも面白いと思ってくださった方は、ブクマ・ポイント評価して下さると幸いです。


会話形式、下みたいにするか迷いました。

Liliannu「@Yufilia 婚約破棄キターーーー(゜∀゜)!」




_Yufilia「@Yufilia 神様チートもない私じゃ、今までほどの規模のネットワークは維持できない」

_Yufilia「@Yufilia ここの、管理者たる資格はない!」

Yufilia「_Yufilia いいえ。ここは必要な場所です。」

Yufilia「@_Yufilia ここは、この世に存在する悪役令嬢たちの憩いの場。」

カオス。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪役令嬢がSNSをやっていたら、という発想が面白いです。シチュエーションが突飛に感じなかったのは、悪ッターの利用者は全員が(恐らくは現代からの)転生者なので、SNSに親和性があるからなので…
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