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奥沢たみおの孤独
それは、奥沢たみおの孤独に染み入るような満月だった。
なにが自分をこんな気分にさせているのか、それはたみお自身にもハッキリとはわからなかった。
ただ、帰宅途中の電車からその満月が見えた瞬間から、たみおの孤独は始まった。
いつもと同じように自宅の最寄り駅で降り、近所のスーパーで食材を買い、風呂あがりに缶ビールを飲みながら豚肉のショウガ焼きを作った。皿に移してリビングのテーブルに運び、2本目の缶ビールを飲みながらそれを食べた。テレビではお気に入りのお笑いコンビが新作のネタを披露していて、声を出して笑った。
すでに酔いは心地よくまわっていた。
しかし、酔えば酔うほどに、笑えば笑うほどに、心の一部が妙に冴えてくるような感覚に、あきらめたようなため息をひとつ吐いて、テレビを消した。
そのまま食器を持って席を立つと、洗い物のついでにシンクやガス台まで念入りに掃除をした。
とにかく何も考えずに何かをし続ける必要がある、とたみおは思った。ぐっすり眠って朝になれば、こんな変な気分も消えているだろう、と。