第十章 それぞれの時間-17-
ごぼりっ――と水が溢れた。毒の水が、どんどん、どんどん。心を満たそうと、溢れ出す。
『欲しければ、奪えばいいのです』
その時、声がした。
静かで、優しく、しかしとても恐ろしい声だった。
『わたくしが力を貸して差し上げましょう。怖がることはありません。ただ、わたくしを受け入れてくれさえすればいいのです』
ごぼりと溢れる欲の湖から、大蛇がゆらりと現れた。青い宝石のような眼をし、透き通った身体は、美しかった。
それは徐々に人の、女の姿へと変じた。
『美しい子。ほら、わたくしの中へ。おいでください、さあ』
女が、その美しく細い四肢を揺らし、その長い脚をゆっくりと開いた。
『さあ? おいで』
ザフィリは夢中だった。夢中で女を掻き抱いた。
今まではされる側だったが、今は自分が犯している。そのことに、これまで生きてきた中で最も興奮した。
自分の物だ。この女は、自分だけの――
喘ぎ声にまた興奮し、時など忘れてしまった。母の気持ちが分かったような気がした。
母は、きっと自分の所有物がほしかったのだ。ただ、それだけなのだ、と。
女もまた、ザフィリを犯した。何度も、何度も、重なり合う身体と、穢れた心が混ざり合う。
毒は毒を食らうことで、さらなる強い猛毒となる。まさに、二人はそうだった。
『あぁ……ザフィリ、あなた……ずっと一緒です。あっ、……ん、わたくし達は、ずっと』
大蛇はそう言って、少年の身体に、己を植え付けた。二人の水音が、混ざり合い、そして響く。
『わたくしの名は、エフィアルティス・フィズィ。水の者でございます』
ザフィリが果てる前に、エフィアルティスは名を告げた。
それから、ザフィリの手首に口付けをし、彼女もまた果てた。
その後、盗賊達を皆殺しにして、金を奪ったザフィリは、傭兵の訓練所へと何食わぬ顔をして入所した。




