第二章 傭兵と魔法-8-
「でも、いい? それだけ、敵が増えるってことでもあるからね」
さっきとは打って変わって、にやけそうになるカズホに、年下の傭兵先輩のミーシャは言い渡した。
「さっ、まずは宿を探しましょ。これからのことを話し合わなくっちゃ。通りに良いとこがあるから、そこで……あ!」
「え?」
さっきまでカズホの気を引き締めさせようとしていたミーシャだったが、ある露店に目を奪われていた。どうやらそこは布屋さんで、それを使ったサンプルの衣装も飾られていた。ミーシャはそわそわとして、全身からあの店に寄りたいというオーラが溢れていた。
カズホはそんな少女に、デート時の元カノを重ねる。
(やっぱり、戦わなければ普通の十代の女の子なんだ)
ちょっと微笑ましく思う。
「……見てく?」
「いいの? やった!」
「あっ、ちょっと!」
一人で行くのかと思いきや、腕を思い切り引かれ、カズホはつんのめりそうになった。が、なんとか耐え、ミーシャの後に必死でついていく。
(モンスターよりも動きが読めない……)
露店前に着いたら、ふくよかな体躯で朗らかな顔をした店主が、「いらっしゃい、可愛らしいお客さん達」と笑った。
「ねぇ、今流行の色は何?」
ミーシャがすかさず訊く。
「そうだねぇ、今は縁がよく出るよ。メインにしてもいいし、差し色でもいいね。お嬢さんなら、そうだねぇ」
店主はのっそりと店前に出てきて、無地のエメラルドグリーンの布を取り、ミーシャに合わせてみる。
「うん、これをメインにして、衣装を作られると良いなぁ。金の刺繍を入れると素敵だと思うし、腕の良い刺繍屋も紹介するよ。ねぇ、旦那様」
「へっ? お、俺?」
「ねぇねぇ! どう? 似合ってる?」
旦那様という言葉に狼狽えていると、ミーシャは催促するようにキラキラとした瞳を向けてきた。
「うん、良いんじゃ、ないか」
「もう! ハッキリしてよ! おじさん、他の色はどう?」
「よしよし、じゃあ、こちらはどうかね?」
「わぁ! これは珍しい布地だよね!」
「ちょっと値段は張るが、お嬢さんならば……」
結局ここだけでかなりの時間を費やした。その間、ミーシャの「どう?」「似合う?」「こっちとこっちはどっちが良い?」という質問攻めに、カズホは「うんうん」「良いよ」「似合うよ」と笑って答えていた。
カズホには、街道の戦闘よりも頭を使った時間となったのだった。