第十章 それぞれの時間-3-
「ふぅ……まさかここでサポートセンターにいた時のスキルを使うことになるとは」
息を吐けば、辺りからぽつりぽつり拍手が起こり、最後には同僚全員と兵士までも手を打っていた。
「すごいです!」
「なんですか? あの対応の仕方は⁉」
「教えてください!」
周りを取り囲まれ、カズホは動揺した。
「なっ、何って……普通に対応しただけだけど?」
キョトンとするカズホに、周りも首を傾げていた。
「普通? あれほど怒っている旅人を兵士の力なしで宥める人を見たことがないよ」
言われて辺りを見れば、門の前に立っていた兵士二人が、カズホを尊敬の眼差しで見ていた。
「それに、あんなにはやく書類を繰る人もはじめて見た!」
「言いながらできるなんてすごいよね!」
カズホの先ほどの対応に、周りの同僚達は話す。
(あぁ、ここでは、接遇がないんだ)
カズホのやり方は、元いた場所の会社では当然のことだが、ここでは何かが噛み合わなければ訪問客だろうが、なんだろうが、兵士に摘み出されて終わりだ。相手の疑問やそのことへの憤りを少しでも聞き、治めるという習慣があまりなかったのだった。
それで別に困ることもないのだろう。
が、今のカズホのやり方を教えてほしいという者が多くいた。
その中の一人に、さっき受付を代わった女性がいた。
「本当にありがとうございます! 助かりました!」
「いや、別に大したことしてないし」
苦笑するカズホの手を、女性はぐっと握った。
「先生になってください!」
「あっ、いや……教えられることはほんとないから……その前に、ヴァソス様の記録を……」
「それは、私がしておきましょう」
カズホが遠慮していると、そう声がして、また一つ拍手が起こった。
「ルイーズさん」
「教えてください。それは、今この役所に必要なことでもありますから。報酬は、倍にします」
「えっ……えぇ⁉」
カズホは二日目にして、教育担当になってしまったのだった。




