第十章 それぞれの時間
次の日の朝は、途轍もなく眠かった。
闇の植物を倒した後に宿屋に戻れば、ミーシャとエザフォスに散々説教をされた。
自分のことをもっと優先しろと――
ならば、すぐにでも寝かせてくれと思ったが、無茶をしたのは自分なので、甘んじて叱られた。
気付けば朝と呼べる時刻になり、二人はようやくカズホを開放してくれた。彼らは昼からの出勤らしく、まだゆっくりと寝ている。
カズホは朝からなので、眠い眼を抉じ開けて、アイマンの用意してくれた温かい朝食を食べて、役所へ向かった。
昨夜助けた青年パウルに殴られた左頬痛む。
「あいつ、本当に大丈夫かな?」
あの後、青年は憑き物が落ちたようだった。疲れ切ってはいたが、カズホへお礼も言い、またどうにか頑張ってみると笑って別れた。
(心配し過ぎても仕方ない、か)
カズホは肩を竦め、見えてきた役所に意識を向ける。
「さっ、俺も頑張りますか」
――と、意気込んだものの、初っ端から不穏な空気が立ち込めていた。
長期滞在を希望していた旅人の男が、一度検問所を何事もなく手続きを終えて抜け、再度入場しようとした時に、以前の記録はなく、違反料金を取られたと怒鳴り込んできたのだ。
個人の情報を粗末にしているし、その違反料金は馬鹿高く、それもおかしいとのことだった。
受付にいた若い女性は、男の剣幕にたじたじで、涙目になっていた。
周りを見れば、皆気になっているが厄介な客の対応はしたくないらしく、忙しそうな振りをしていた。
その間にも、旅人の怒りはヒートアップしていく。
「だから、どうなっているんだと訊いている。この街では、まさか入ってきた旅人の情報を売っているとかではないよな? それとも、わざと紛失させて、違反したと高額の料金を取って、財政を潤しているのか?」
「え、えっと……それは、こちらでは、ですね、えっと……分からないので……」
「分からない? あんた、ここの担当者だろう? いいか? 俺は、一度ちゃんと検問所で手続したんだ。ここに届いているだろう?」
「お、お名前を、もう一度……」
「何度言わせるんだ? おまえ、確認もしてないじゃないか? もういい、おまえじゃ話にならんから、違う奴を……」
「何かこちらの不手際がありましたようで、申し訳ございません」
カズホは堪らず、女性の横に立った。