第九章 それぞれの仕事-21-
カズホは繰り出される蔦の攻撃をどうにか避け、一つひとつ焼き切っていく。
『モット……モットちょうだい』
「そんなに焦んなよ」
小さな花の蔦を切り落とし、住人を地に寝かせる。そこに、炎の壁を作った。
「ルベル、しばらくこれを維持してくれ!」
『了解した』
助けた住人はルベルに任せ、カズホはまた蔦を焼き切ることに専念する。
花が一つ、また一つと散っていった。それは汚くも、しかしどこか儚げで、カズホを悲しい気持ちにさせた。
『ちから……ナクナル』
「俺の、力……やめろ……やめろ……」
ホロメスから受け取った剣は、よく切れた。まるで、カズホの意志を力にしているようだった。
『あれは、もしや……』
顕現したルベルが、赤い眼を大きく見開いた。
炎の力も加わり、剣はさらに輝きを増す。
闇が深ければ、深いほど。
光は強くなる。
『やだ、ソレ……やだ』
「やめてくれ……頼む……せっかく手に入れた力なんだ」
「これは、おまえの力じゃない。本当は分かっているんだろう?」
最後の住人を助け、カズホは青年に言った。
「おまえには、また必ずチャンスがある。成功できる。悔しいことも、嫉妬心も、全部おまえを必ず助けてくれる」
だから、とカズホは叫ぶ。
「失敗したら、悔しいと大きな声で言えよ! 俺が聴いてやるから! 必ず聴いてやるからさ!」
炎が金色の光となる。太陽のようにそれは輝き、それは徐々に濃く、強力なものとなる。
「な、んだ? えっ……⁉」
それはカズホの腕では制御できないほどの力となり、切っ先が青年へと向いた。
「ちょっ、ちょっ……待て待て待て!」
剣の柄から手を放そうにも、何かの力でくっ付いているような感覚だった。
「まさか、これ! 呪いの剣とかじゃないよな⁉」
『カズホ、それは……!』
ルベルの言葉に重なるようにして、赤と金の寄り添い合う光線が真っ直ぐに青年へと放たれた。
「ちょっ……! 待ってくれ!」
持ち主の絶叫の先で、闇の植物の巨大な花は――青年は光に貫かれた。
闇が、はらはらと砕け散る。
『やだ……ひかり……もつもの……きらい』
残ったそれは、小さな種のようだった。
『カズホ、あれが本体だ!』
カズホは、空中に放り出された青年をなんとか受け止め、ルベルの言葉に顔を上げる。
が、小さく禍々しいそれは、すぐさま地に潜り、どこかへと逃げて行った。
カズホは追わず、青年を見た。
『逃がしてよかったのか?』
「ああ、後はあっちにいるミーシャ達がやってくれるよ」
カズホは、青年の前に膝をつく。呼吸を確かめた。
彼は、息をしていなかった。
やったことはないが、思い出しながらすぐさま青年の胸を何度も圧迫する。
「頼む、起きてくれ……頼む!」
こんなところで人工呼吸をするとは思わなかった。
息を確かめる。まだ戻ってこない。
カズホは続けた。
頼むと、祈りながら。何度も。
『……カズホ、そろそろ』
「まだだ。まだ……お願いだ、戻ってきてくれ」
『いや、だから』
カズホの剣が、また仄かに光り始めていた。が、必死の持ち主はそれに気付いていない。
どくん、と何かが鼓動した。
二度目の人工呼吸をしようとしたその時――
「へ?」
「え……えっ、ちょっ! あんた何してんだよ⁉」
ぱちりと目を開けた青年に、思い切り殴れたカズホだった。
『だから、そろそろ良さそうだと』
「はやく言ってぇ!」
『言いかけたのだがな』
自分の赤い鼻血の軌跡を見ながら、カズホは天を仰ぎ、気を失った。




