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第二章 傭兵と魔法-6-

「魔法のことは、大体頭に入った?」


 あの後も、数体のビックサイズのトカゲことサラマンダーを倒し、二人はようやく大きな岩陰に腰を下ろす。陽射しは相変わらず強いが、近くには縁があり、小さいが湧水が溜まっている箇所があった。この辺りは、イーリヤ付近よりも水源があるようだ。

 カズホは眉間に皺を寄せて、ミーシャからさっき聞いたことを復唱する。


「え、っと。俺が火属性で、ミーシャが風。あと、水と土と光と闇がある、だっけ?」


 スマートフォンがほしい。ないことは分かっているから、せめて書く物を、と思うがここでは紙もインクも貴重らしい。だから、書物は高値で取引されている。大体は口頭で伝達と記憶をしていくようだ。

 ミーシャが、「そう」と促す。


「で、それぞれの属性の怪物を取り込めば、その怪物の属性魔法が使えるようになる、だよな?」

「正確には、幻獣。通常の怪物(モンスター)とは格が違う。人間には扱えない力の方が多いわ」

「でも、俺もミーシャもなんともない……いや、入ってきた時、相当苦しかった、というか、激痛だったというか」


 ルベルを内に受け入れた時のことは、すでにぼんやりと掠れてきていた。脳が記憶するには、絶え難いものだったのかもしれない。

 ミーシャが小さく頷く。


「そこで試されてるのよ。器となれる肉体なのかってね。もしもそうでなかったら、死が……器となれたなら、その幻獣の形の痣ができる」


 そう言って、彼女は左脇腹付近をそっと撫でた。人によって、痣ができる所が違うらしい。ミーシャの場合、あまり人に見せられる場所ではなさそうだった。


「さっきも言ったけど、ルベル・インバニアは幻獣の中でもトップクラスの存在」

「……な、なんでそんなすごい奴が、俺に?」

「さあ? 幻獣の考えてることまでは分からないよ。でも、取り込む時、何か話したんでしょ?」

「うぅん」


 話したことは覚えているが、肝心の内容を憶えていない。


 生きたい――そう強く願ったことは確かだった。


「ミーシャは? 風の幻獣だっけか? 取り込んだ時、どうだったんだ?」


 これには、ミーシャが困った顔をする。何も遮る物のない星明りが、カズホの彼女の表情をよく見せた。


「……ごめん、あたしも憶えてないや」


 風の魔法の家系――それは、カズホが想像している以上に、過酷な運命を背負っているのかもしれない。


(そういえば俺、ミーシャのことを実は何も知らないな)


 ここに来て、最初に出会った少女。カズホが回復するまで、ずっと傍にいてくれた。


 そして、今も――


「なぁ? どうして、俺についてきてくれるんだ? ミーシャは、イーリヤでちゃんと仕事があったのに……」


 ふと疑問に、いや、ずっと疑問に思っていたことを、カズホは口にした。今まで訊こうとは思っていたが、なかなかタイミングが掴めずにいたのだ。

 辺りはすっかり暗くなっているが、ミーシャの顔はよく見える。星は明るいのだと、カズホははじめて知った。が、なぜか彼女の感情は読めなかった。


「なんで、得体の知れない男の看病をしてくれたんだ? なぜ……」

「傷ついた人を助けるのは、当たり前でしょ」


 カズホの湧き出る疑問を、ミーシャはあっさりと、そして真っ直ぐ返した。さっきまで読めなかった彼女の感情は、今その濃い茶色の瞳に強い意志となって表れている。


「ここは確かに人を騙して、自分の欲を満たす連中がいるけど、大半はそうじゃない。みんな、自分の生活に必死になりながら、誰かを助けてる。助けたいのよ、必要とされたいの」


 そこでミーシャは一旦言葉を切って、肩を竦めた。


「あっ、でもこれだと結局、自分の必要とされたいって欲を満たしてるだけか」

「そんなことない。助かったよ。ううん、助かってる、今も」


 これからも、ずっと――


 とは、言葉は続けられなかった。

 何故なら。


「夜、だもんね」

「ああ、夜だからな」


 二人は慣れたように立ち上がった。

 剣呑な気配がする。サラマンダーよりもさらに厄介な相手が、二人を取り囲んでいた。

 怪物達は、夜の方が元気だ。


「ちょっと肌寒くなってきたから、丁度運動したかったのよ」

「五体、か」

「土のゴーレムね。あたしの魔法が有効そう」

「じゃ、俺が引き付けるから、またとどめは頼んだ」


 ミーシャが、「任せといて」と微笑む。カズホも、ニッと笑った。

 映画や漫画の世界に迷い込んでしまったような話を、今自分は受け入れている。それだけでも、カズホは不思議だった。


 が、それ以上に自分がトップクラスのそれを扱う日が来るとは――


(あれ以来、ルベルの声は聞こえないけど)


 見知らぬ土地の満天の空は、だが駆け出すカズホの行く末を、しっかりと照らしているようだった。

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