第九章 それぞれの仕事-9-
「もっといるはずよ。ルイーズさんなら知ってるでしょ?」
「他にも知っていますよ。でも、ミーシャが適任者だと私は思います。一日だけでもやってみてはいかがかな?」
「一日、だけ?」
「無理ならば、また相談しに来ていただいて構いません。仕事は山ほどありますから」
ミーシャが食い入るように書類を見る。
やってみたい気持ちはあるようだった。
「一日なら、やってみたら?」
「で、でも……」
尻込みをするミーシャをはじめて見た。
こういった時、どう声をかけていいのかカズホは分からなかった。
無責任にやってみろとも言ってはいけない気がした。でも、やりたい気持ちが見え隠れしている彼女の背を押したい。
カズホが声をかけ損ねていると、エザフォスが口を開く。
「ミーシャは何が心配なんだ?」
「だって、あたしよりも経験があって、知識もあって……それこそ教えるのが上手い傭兵はいっぱいいるじゃない」
「どうしてそいつらが教えられると思う? 傭兵になってから、おまえに経験や知識を教えてくれた奴がいるか?」
「いない、けど」
「じゃあ、カズホは?」
「ミーシャがいるよ」
「だろ? じゃあ、もう決まりじゃねぇか」
「なっ、なにがよ?」
ミーシャにとっては、勝手に話が進んでいるように思うのだろう。が、カズホには分かった。
ミーシャがいなければ、傭兵としてのカズホはここにいない。
ルイーズも分かっていたようだった。
「すでに、立派な生徒さんが目の前にいらっしゃる。ミーシャ、そのお仕事をお願いします。あなたなら、必ずできます」
「……分かったわ。でも、一日やってみて、駄目だったらまたここに来る」
「そうしてください」
次にルイーズはエザフォスを見た。
自分の番になると、エザフォスは緊張した面持ちとなっていた。いや、仕事の内容がそうさせていた。
「これよ、いいのか?」
「さっきのあなたの言葉をお返ししましょうか?」
「いや、だってよ、俺は盗賊だったんだぜ? 盗まれると思わねぇのかね、あのオヤッさんは」
「オヤッさん?」
「もしかして、ホロメスさん?」
カズホとミーシャの疑問に、ルイーズはゆっくり頷く。
「直々にご指名です」
「すごい! 指名料も入ってくるじゃない!」
「俺の指名料は、今じゃ微々たるもんだけどな」
「それでも戻ってすぐなんて、やっぱ……エザフォスの方が……」
「それは、ミーシャの仕事だ。じゃあ、俺はこれを引き受けるぜ」
エザフォスが書類をひらりと揺らし、サインした。