第九章 それぞれの仕事-8-
今日も仕事を紹介してもらうために、三人は役所へと足を運んだ。
さすがに猫と小鳥を引き連れていくわけにもいかず、「絶対に大人しくしていること」とミーシャがアベレスとタクスィにまた念を押した。
役所は相変わらず様々な人の流れる音で溢れていた。住居者の様々な書類の受渡受付に少し列ができ、転移してきた者や、逆に引っ越す者の受付は代わる代わる人がやってくる。
二階へ行く者は、今カズホ達だけだった。
「上は今日少ないのかな?」
「ここは、ある程度定着した長期の仕事が多いんじゃない。夜の警護も、一度引き受ければ、最長一月は更新しなくていいし」
「そうなんだ」
「個人で長くやる仕事もあるしな。俺は前に土木業もしてたぜ。二月くらいか」
「へぇ」
傭兵の仕事は戦闘ばかりかと思っていたが、幅広いらしい。
二階のいつも場所には、いつもの人物が座っていた。が、今日は先客がいた。二十歳前後の青年だった。
「あれ……? 彼、前にも見た気が……」
青年の対応はすぐに終わったが、去り際の彼の表情は、どんよりと暗かった。前は、少し見ていただけだが、とても明るく、希望に溢れる青年といった風だった。
「……大丈夫、かな?」
「仕事に失敗したのかも。みんな通る道だから、そんなに心配しても仕方ないわよ」
表情だけでなく、背中にまで影を負ったようなその青年を、カズホはどうしてか気にかけてしまっていた。
が、まずは次の自分の仕事を紹介してもらわなければならない。
「こんにちは。今日は、お三方それぞれに良いお仕事が入ってきたので、紹介しようと思っていたところです」
カズホ達を席に促しながら、ルイーズは言った。
「それぞれに?」
ミーシャは右端に座って、差し出された書類を見た。
「これ……」
「ミーシャにピッタリだと思い、まだ誰にも紹介しておりません」
ルイーズが、中央のカズホと、左端のエザフォスにも書類を渡しながら言う。
「どうでしょう?」
「どうでしょう、って……こんな、あたしなんかじゃ務まらないわ。エザフォスの方が……」
ミーシャの言葉に、エザフォスがカズホを挟んで、「どれ?」と彼女の書類を覗き込む。
「あぁ、俺はこりゃ駄目だ。一旦傭兵を抜けて盗賊やってた先生なんて、聞いたことねぇだろ」
「えっ? 先生? すごいじゃん! ミーシャ!」
「む、無理よ。傭兵訓練所の講師なんて……」
「それこそ、まさにピッタリじゃないか!」
まるで自分のことのように喜ぶカズホと違い、ミーシャはまだ不安そうだった。