第九章 それぞれの仕事-3-
カズホは、車窓を眺めていた。
電車に乗るなんて、いつ振りだろう。もう何年も載っていないような感覚だった。
窓の祖に映る景色は、真っ白だった。
気付けば、カズホ以外乗客もいない。
「あれ……どこへ向かうんだっけ?」
景色がないから、どこかも分からない。
ここは、どこだ。
カズホは不安になり、誰かいないかと車内を歩いた。一号車から二号車へ、三号車も四号車も、その先にも、誰もいない。
「誰か? 誰かいませんか?」
声を上げても、応えてくれる者はいない。
突如、辺りが闇に包まれた。
トンネルに入ったのかとカズホは思った。
しかし、違った。電車の中も暗く、ついにはそこがただの闇になった。
光はどこだ。自分の向かっていた場所は――
「ミーシャ! エザフォス! タクシィ? アベレス?」
仲間を呼んだ。
そうだ、仲間がいる。
あっちだ。
そこに、いる。
「ルベル!」
『全く、世話の焼ける宿主だ』
「え?」
そこはまた、世界となった。
目の前に、赤いドラゴンがいる。
『夢の中まで私を呼ぶとは。まあ、ここでしか話せないこともあるから、好都合だったがな』
「ゆ、め? そうか、これは夢か」
『ああ。起きたら忘れている。だから、話してやろう。おまえの知りたいことを』
ルベルが赤い炎と化し、次の瞬間、女性の姿を成した。
美しい女性だった。炎そのものと言える真っ赤な曲のない髪の毛は腰まであり、切れ長の瞳は深紅だ。白く透き通った肌に身に纏う衣は、赤いドレスのようだった。
身長は、百七十八センチはあるカズホとほぼ変わらない。女性にしては高身長で、スレンダーだ。
『この方が話しやすいと思ってね』
驚くカズホに、ルベルは妖艶な笑みを浮かべた。
『さあ? 何が訊きたい?』
言葉の端々から漂う艶やかさに、カズホは頬を赤くし、視線を泳がせた。
実際目のやり場に困るほど、ルベルはスレンダーだが色気がある。今まで出会ったことのないタイプの女性だ。
姿が変わるだけで、こんなにも心が掻き乱されるものか。
『どうした? ないのなら、私は行く』
「あっ、ちょっ……あるよ、訊きたいことは、たくさんある。ただ、ルベルがこんなに綺麗な女の人だったなんて……いや、変な意味ではないんだけど、こんな綺麗な人が、自分の中にいるって思うと、ちょっと……なんて言うか……」
照れてしまい、言葉が途切れ途切れになるカズホに、しばらくキョトンとしていたルベルは、まさか吹き出した。そして、声を上げて笑った。