第九章 それぞれの仕事-2-
「もう少しって感じではあるけど、このままだと確証も確実性も得られない気がするんだよな。そうだ、ルベルと話せるようになったら、訊こうと思ってたんだけど……」
『悪いが、次元の穴のことは私もよく知らん。どこか別の世界に繋がっているとしかな』
「そんなぁ~……」
唯一の頼みの綱であったルベルにぴしゃりと返され、カズホはさらに疲れた。
疲れ過ぎて、頭も回らない。
カズホは机にばたりと突っ伏す。
「ちょっと、カズホ。カズホったら……あれ?」
「寝ちまったようだな」
エザフォスが立ち上がり、カズホを起こさないように背に負う。ミーシャもそれを手伝った。
「本当に知らないのか?」
カズホをベッドに寝かせ、エザフォスはルベルを横目に睨んだ。
ルベルは口端を持ち上げるようにして、『さあな』と言い、姿を消した。カズホの中へ戻ったのだろう。
「まあいい。いずれは必ず辿り着くかぁ。さあて、俺も寝る。おじさんは疲れちまったぜ」
そう言ってカズホの部屋を出かけるエザフォスに、ミーシャはふと疑問に思ったことを口にする。
「そういえば、エザフォスって何歳なの?」
「あぁ? 俺は、何歳だったっけな……?」
「自分の歳なのに忘れる?」
「祝う奴もいなけりゃ、数える習慣もなかったからなぁ。三十六か、七か、八くれぇじゃねぇか?」
「なんて大ざっぱな……いいわ、ルイーズさんの方が知ってそう」
「そうだな、俺も訊いてみてぇわ」
笑うエザフォスに、ミーシャは慌てて人差し指を口元へ寄せる。
「カズホが起きちゃうでしょ?」
「すまんすまん、じゃあ、ミーシャもはやく休めよ。おやすみ」
「うん、おやすみ、エザフォス、アベレス」
『おう、おやすみ』
出ていくエザフォスと、その後をついていく猫と化したアベレスに挨拶をして、ミーシャは子どものようにぐっすり眠るカズホへ目を向けた。
ちょっとだけ、前髪を触ってみる。曲毛らしい彼の髪は、ふわりとしていた。
「もうちょっと、先生してたかったな」
年上の、手のかかる教え子。それが、いつしか頼れる仲間になっていた。
(でも、本当にそれだけ――?)
小さな鷲、いや、ただの小鳥となったタクシィが、ミーシャの肩に留まる。
『ミーシャ、そろそろ』
「うん、もうちょっと」
カズホの腕にあるたくさんの痣を、ミーシャは風の魔法で癒しながら、穏やかな夜の時を少しだけ一緒に過ごしたのだった。




