第八章 西に出者-8-
そこには、ザフィリがいた。
「ど、どうしてここに?」
昨日出会った時と同じように、優雅な雰囲気を纏っていた。
「それは、どこへ繋がっているか分からない、次元の狭間。君が通れる道ではないですよ」
「帰れるかもしれないんだ」
「体と心がバラバラになってまで帰りたいんですか?」
「ッ……」
どこへ繋がるか分からない穴。誰も通ったことのない道。きっと通ったことがあっても、話す人がいないということは、生きていないということ。
では、どうして自分は通れたのだろうか。
カズホはぐっと奥歯を噛み締める。
「どうすれば帰れるんだ……やっと、やっと見付けた手段なのに」
「手段が確実なものではないのは、ここにまだ、君にやるべきことがあるということでは?」
「え?」
前を向けば、ザフィリの背後に雷を纏う金色の巨大なドラゴンの姿があった。
こちらに押し戻されているようだ。
「僕も毒ですが、あれはもっと毒です。お仲間さん達がそろそろ限界のようですよ」
クスクスと笑い、ザフィリは穴側を向いたまま、カズホの横へ並んだ。
「でもまあ、彼らがいなくなれば、僕は万々歳ですけどね。君がこちらへ来てくれるから」
ハッとし、横を向けば、もうザフィリの姿はなかった。
後ろに、帰れるかもしれない穴がある。
だが、目の前に戦っている仲間達がいる。
「俺に、まだやれることが――」
ここにある。
拳に力を込める。
「ルベル、俺に力を貸してくれ」
『全く、世話の焼ける』
「えっ……えっ?」
キョロキョロと辺りを見回す。
そういえば、ミーシャもさっき同じことしていた。カズホは、まさか、と右腕の痣を見た。
『見なくても話せる。おまえが、そうしたいならな』
「ルベル……?」
『あの阿呆獅子がおしゃべりなおかげで、あの堅物の鷲まで。だが、これで漸くおまえの決心が固まったな』
ルベルの落ち着いた声に、カズホは息んだ力が抜けた。代わりに、自然な呼吸ができていた。
「ルベル、俺はまだここにいる。この穴が、確実に俺を元の世界へ戻れる手段となるまで」
ルベルがふっと笑った。
『本当に世話の焼ける宿主を選んでしまったものだ。まあ、それが面白いから、おまえにしたのだが。カズホ、今はゆっくり話している暇はない。急げ。おまえの仲間と、阿呆も堅物も、そろそろ限界らしい。行って助けてやれ』
カズホは瞳を閉じ、開けた。その目の色は、赤く輝いていた。
辺りを這う雷を避けつつ、カズホは真っ直ぐに仲間の元へと駆けた。




