第八章 西に出者出-2-
「人々が気付いた時には、荒野しか残っていなかった。これがエリミヤの神話よ」
ミーシャの話が終わる頃、丁度西の街道の検問所を少し過ぎた所だった。
「神も結局人に語り継がれなければ、終わってしまうのね」
「ミーシャ先生は何でも知ってんだなぁ」
「傭兵の訓練を受ければ、習うはずですけどねぇ、エザフォス『さん』?」
「やめろ! むず痒い! いや、ほら、習う年代がちげぇからよ」
「おんなじよ! これは変わってないから!」
ミーシャの話を聞き終わり、カズホは少しだけ物悲しさを覚えた。
「誰からも必要されなくなるって、人間でも神でも、寂しいよね」
「まあ、でもそれも神話だから。世界がどうできようとも、みんな今の生活で精一杯だしね」
それは正論だった。
陽が沈みかけ、月が代わりに顔を出し始めている。
この世界の神は、どんな気持ちで創ったのだろうか。
「ルイーズさんは、じゃあ、ただまじないのつもりで言ったのかな?」
「そうだと思うけど……冗談でそんなこと言う人じゃないから、もしかすると、今でもエリミヤの神の数少ない信者なのかも」
自信なさげにミーシャは答えた。
と、また勝手に声がする。
『神とは何とも滑稽な存在なのだな』
顕現したアベレスに、ミーシャが呆れる。
「あたしは、あんたの方が滑稽。ほんとどうしてそんなに出たり入ったりできんのよ? あたしのタクシィも、カズホのルベル・インバニアもそんなことできないのに」
『さあ? 何故だろうな? 前は確かにこのようなことはできなかったな』
アベレスは、三人と足並みを揃えて歩きながら言った。
『おまえ達の幻獣は、話せないのか?』
「あたしは、戦闘時に少しだけ。会話っていうほどでも……カズホは?」
「俺は、……全く。火を出せるようになったって感覚だけ」
でも、アベレスのように何かにつけて顕現され、がやがやと言われたら、それはそれで困る。
「経験の差か?」
さり気なく優位に立つエザフォスに、ミーシャが唇を尖らせた。
「関係ないと思うけど」
『まあ、おまえらについているということは、どちらも居心地は良いとは思っているのだろうが』
「幻獣同士で話せないの?」
ミーシャが問えば、アベレスは鬣を振った。
『相手が話したくなければできぬ。元々生まれた次元も違うのでな。俺様が生まれたのは、ほら、あの空間だ』
それは唐突だった。
何もない荒野の一か所に、稲妻が走った。バリバリといった轟音が、カズホ達の耳を劈く。
「ぐっ!」
「みっ、耳が痛い!」
「伏せろ!」
音に気圧され、動けなかった二人を、エザフォスは庇うように抱き寄せ、伏せさせた。
電流音が爆風となり、辺りに砂埃を立てる。だが、まだジリジリと音がしていた。
「な、なに?」
「……ドラゴン?」
「えっ⁉」
エザフォスの腕の中で、カズホとミーシャは土煙の上がる前方を見た。
金色の稲妻が絶えず辺りを這っている。そこから、ぬっと蛇にも似た頭が持ち上がった。




