第二章 傭兵と魔法-4-
目の前には、荒れた土地が広がるばかり。
そこには、カズホのいた世界では見たことのない大きさのトカゲが二本足で闊歩し、自分達のテリトリーに入って来た者を攻撃していた。
「ちょっちょっ……! ちょっと待てぇ! 俺は何もしない!」
カズホはそう叫びながら、そんな荒野を全速力で走っていた。こんなに走るなんて、学生の時以来だ。後ろには、数体のトカゲモンスターがついてきている。しかも、肩に大きな斧を持っていた。
「だから、突っ込んでいくのやめなって言ってんでしょ!」
ミーシャがカズホの隣を軽やかに走っている。
「もうちょっと引き付けてて、カズホ」
「ちょっ、ちょっと待っ……」
カズホが止める前に、ミーシャが目の前の岩肌に飛び乗った。トカゲは相変わらずカズホをロックオンしているようで、ずっと後ろをついてくる。
息が上がる。が、まだ走れる。体力も上がってきていた。
(これも、ルベルの力のおかげか?)
背後から剣呑な気配がして、カズホは横に飛ぶ。と、凄まじい音と共に土煙が爆走した。トカゲの持つ斧が振り下ろされた時に生ずる衝撃だった。
「っぁぶね!」
カズホが冷や汗を掻いていると、頭上から声が降る。
「カズホ! 前に飛んで!」
「ほい来た!」
相槌を打って、カズホは大きく前方へと踏み込んだ。
体が宙に浮く。走り幅跳びも得意ではなかった。ふと、体育の授業が懐かしくなった。
が、今のカズホには、十代の頃よりも強靭な足腰がある。否応なしにここにいたら体が鍛えられた。
(今の体であの頃に戻れたら、インターハイとか行けたかもな)
暢気なことを考えていたら、背後で轟音が轟いた。ミーシャの風魔法が炸裂したのだ。
トカゲ達のおぞましい断末魔が聞こえ、やがて消えた。
「終わったか?」
振り返れば、一体だけミーシャの魔法から逃れたトカゲが、カズホへ斧を振り翳していた。
「っの!」
カズホは腰に携えた剣を抜き、斧を受け止める。衝撃に腕が痺れそうになった。
「残るはおまえだけ」
カズホの瞳が、緋色に光る。そして、腕に残った竜型の痣が赤く輝いた。
「行け! ルベル・インバニア!」
カズホの声に、痣が疼く。その感覚にまだ慣れない。
カズホの体から炎が立ち上った。それは、一瞬竜の形をなし、それからビックサイズのトカゲを飲み込んだ。
肉が焼ける嫌な臭いに、断末魔を聞きながら、カズホは己の出した炎を見詰めていた。