表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/149

第七章 穴-8-

 が、カズホには、まだ少し引っかかるような気がしていた。それは、小さな棘のようなもので、疼くようでもあるが、気にしなければそれで終わる類のものだった。

(なんだろう?)

 考えても、その棘がどこに刺さっているのかも見つけられない。

 そんな時は決まって、カズホはミーシャを見た。

 彼女は、何かを考えているようで、険しい顔をしていた。が、首を横に振り、エザフォスを見る。

「どっち道、やるかやらないかは、カズホが決めること。あたしやエザフォスが深読みしても仕方ないわ」

「そうだな」

 二人の視線が、カズホに向く。

 カズホの心は、決まっていた。

「やろう。ただし、仲間殺しはしない。そういった仕事になりそうだったら、俺は手を引く」

「うん」

「ああ」

 三人は同時に頷いた。

 夜までまだ時間があるが、先に仕事を受けるとルイーズに伝えなければならない。

 立ち上がろうとした三人に、アイマンが声をかける。

「もう行くのか? その前に、少し腹ごしらえはどうかと、パンを焼いたんだが?」

「食べる!」

 カズホとミーシャの元気な声に、エザフォスが珍しく驚いた。

「おまえら、子どもみてぇだな」

「アイマンさんの料理は絶品なんだって」

「そうよ、おじさんの料理はエリミヤ一なんだから!」

「光栄だ」

 パンを並べるアイマンは嬉しそうだった。

 エザフォスも一口でアイマンの料理の虜になったようだった。

「こりゃうめぇ! こんなうめぇパンはじめてだ!」

『エザフォス、俺様にもくれ』

「あんたまだいたの?」

『俺様はいつだっておまえ達の傍にいる』

「気色わりぃわ!」

「てか、アベレスは食べられんの?」

『ぐぬぬっ⁉ ……この姿では食べられぬ、だと』

 パンの乗っている籠の上を、アベレスの前足がスカスカと通り抜ける。まるで、猫じゃらしで遊んでいるライオンのようだった。

「残念でしたぁ。あぁ、美味しい」

『解せぬ……』

 ミーシャとアベレスがやり合っている横で、エザフォスがふと何かに気付いたように、カズホを見た。

「今更だが、訊いていいか?」

「なに?」

「帰れるとか、そのキッカケとか、……なんだ?」

「あ……」

 肝心なことをエザフォスに伝え忘れていることを思い出し、カズホは謝りながら、新しい仲間に自分の境遇を教えたのだった。

 もちろん、パンを食べながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ