第七章 穴-8-
が、カズホには、まだ少し引っかかるような気がしていた。それは、小さな棘のようなもので、疼くようでもあるが、気にしなければそれで終わる類のものだった。
(なんだろう?)
考えても、その棘がどこに刺さっているのかも見つけられない。
そんな時は決まって、カズホはミーシャを見た。
彼女は、何かを考えているようで、険しい顔をしていた。が、首を横に振り、エザフォスを見る。
「どっち道、やるかやらないかは、カズホが決めること。あたしやエザフォスが深読みしても仕方ないわ」
「そうだな」
二人の視線が、カズホに向く。
カズホの心は、決まっていた。
「やろう。ただし、仲間殺しはしない。そういった仕事になりそうだったら、俺は手を引く」
「うん」
「ああ」
三人は同時に頷いた。
夜までまだ時間があるが、先に仕事を受けるとルイーズに伝えなければならない。
立ち上がろうとした三人に、アイマンが声をかける。
「もう行くのか? その前に、少し腹ごしらえはどうかと、パンを焼いたんだが?」
「食べる!」
カズホとミーシャの元気な声に、エザフォスが珍しく驚いた。
「おまえら、子どもみてぇだな」
「アイマンさんの料理は絶品なんだって」
「そうよ、おじさんの料理はエリミヤ一なんだから!」
「光栄だ」
パンを並べるアイマンは嬉しそうだった。
エザフォスも一口でアイマンの料理の虜になったようだった。
「こりゃうめぇ! こんなうめぇパンはじめてだ!」
『エザフォス、俺様にもくれ』
「あんたまだいたの?」
『俺様はいつだっておまえ達の傍にいる』
「気色わりぃわ!」
「てか、アベレスは食べられんの?」
『ぐぬぬっ⁉ ……この姿では食べられぬ、だと』
パンの乗っている籠の上を、アベレスの前足がスカスカと通り抜ける。まるで、猫じゃらしで遊んでいるライオンのようだった。
「残念でしたぁ。あぁ、美味しい」
『解せぬ……』
ミーシャとアベレスがやり合っている横で、エザフォスがふと何かに気付いたように、カズホを見た。
「今更だが、訊いていいか?」
「なに?」
「帰れるとか、そのキッカケとか、……なんだ?」
「あ……」
肝心なことをエザフォスに伝え忘れていることを思い出し、カズホは謝りながら、新しい仲間に自分の境遇を教えたのだった。
もちろん、パンを食べながら。