第七章 穴
役所の四階は、サリアの長のものだ。
そして、ルイーズが三人を通したのはそこで、しかも奥にある長のみが座れる椅子に、ルイーズは腰を下ろした。
「……もしかしてって思ったけど」
「ルイーズさん、サリア長、なの?」
「おや? 言っていませんでしたか?」
「知らなかったわよ!」
「これは失礼。改めて、サリアの長をしている、ルイーズ・ミツォタキスと申します」
唖然とするカズホとミーシャの横で、元盗賊だけは「やっぱ人は見かけに寄られねぇな」と感心していた。
「あっ、そうだ。俺もカズホとミーシャ嬢ちゃんに名乗ってなかったな。俺は、エザフォスだ」
「さっき幻獣が言っていたから知ってる。ていうか、エザフォスこそ、なんであたし達の名前を?」
「昨日呼び合ってたからな」
気さくなエザフォスに、ミーシャはどうも調子を狂わされるようで、「あ、そう」と困惑気味に答えていた。
「自己紹介が済んだところで申し訳ないが、仕事を頼みたいのです」
ルイーズが普段と変わらない口調で言った。が、長の椅子に座っていると違いだけで、彼が遠い人に思えた。
「な、なんでしょうか?」
畏まるカズホに、ルイーズが苦笑する。
「昨日と変わらないあなたでいてください、カズホ。私はそんなに偉い者ではない。エリミヤ国の中にある街の一つの長というだけです」
(いや、それってかなり偉いんじゃ……)
首都ではないものの、カズホの感覚では、有名な地方都市の市長という立場にルイーズはいることになる。大阪や名古屋の市長を目の前にしているようなものだ。
(やっぱ偉いだろ!)
緊張するカズホの横で、ミーシャも表情を硬くしていた。
「教えてほしかった」
「すまない」
ミーシャのそれは、カズホのように緊張ではなく、親しい知人から身分を明かしてもらえなかった寂しさもあるのだろうか。
「言ってしまうと、やり辛くなることもありますから。私は結構仕事紹介をする役職が好きでしてね。いろいろな方が来ます。それこそ、カズホ。あなたみたいに、突然この世界にやってきたような方も」
「えっ⁉ いるんですか⁉ どんな人です⁉ その人は、今もここに……⁉」
あまりにも唐突な有力情報に、カズホのさっきまでの緊張は吹き飛んだ。
食いつてくるカズホに、ルイーズは静かな瞳で座っているだけだった。
知りたい。自分と同じ境遇の人に会ってみたい――いや、戻っているのならば、その方法を、手段は。
カズホの焦りに、エザフォスが前に出る。大きな背が、落ち着けと言っていた。