第六章 土獅子-7-
「ねぇねぇ、聞かせてよぉ~。何かあるでしょ?」
「何かって……うぅん、そうだなぁ……大人しい子とは、よく言われてたっけな」
「大人しい? カズホが?」
大袈裟に驚くミーシャに、カズホはジト目を向ける。
「そんな意外か?」
「だって、あんなにサラマンダーに追いかけられても走れるから、外を走り回ってたのかと」
「俺の住む世界に、まず怪物はいないぞ。走るのは、まあ、得意だったけど……そうだ、鬼ごっこは、確かによく友達としてた」
「おにごっこ? 何それ?」
きょとんとするミーシャ―を見て、何気ないことが違うのだとカズホは思い直した。
「鬼役……あ、ここでいう怪物役の子が、他の子を追いかけて、捕まった子が次の怪物役をするんだ」
「あっ、こっちで言うエクサルファね」
「えくさるふぁ……?」
今度はカズホが首を傾げる。
「こんな風に、三角形を二つ書いて、六芒星にするでしょ? 逃げる子は、ここから出ちゃいけなくて、捕まえる子は線の上だけを通るの」
「へぇ、鬼ごっこでもやり方が違うんだな」
「カズホのとこは、六芒星を書かないの?」
「書かない。好きなとこに逃げていいんだ」
「それって、捕まえる子が大変ね」
「まあ、ある程度逃げるのはここまでって決めてたけどな。他にも氷鬼とか、高鬼とかあったなぁ……そうだ、あったなぁ、そんなの」
ミーシャに話しているつもりが、幼い頃の遊びを思い出し、カズホは懐かしく頷いていた。
それは、ミーシャが目を輝かせて聞いてくれているからかもしれない。
「他には? 他には何して遊んだの?」
「サッカーとか、野球とかかな」
「さっかーにやきゅう……それも、こっちではないわ」
「球蹴りはないのか? サッカーは、二つのチームに分かれて、一個のボールを奪い合って、相手のゴールにボールを入れた方が勝ちっていうスポーツなんだ。小さい頃は適当にボール蹴ってるだけでも楽しかったけど」
「やきゅうは?」
「これも、二つのチームに分かれて、交互に攻撃と守備になって、点数を競うスポーツだよ。本当なら一チーム九人だけど、そんなに人数が集まらないから、単純にバッドでボールを打ち返せば勝ち、とか勝手にルール決めてやってたっけ」
話せば話すほど、懐かしくなる。
幼い頃の遊び自体もそうだが、小学を卒業して以来会っていない友達が、今何をしているのだろうと感慨に耽る。
あの頃は、二度と会えなくなるとは思っていなかった。毎日会って、毎日勉強が嫌だと言い合って、変なことで笑って、一緒に泥だらけになって遊んでいた友達。
戻ったら、連絡してみようか――戻れたら、会いたい。
黙ってしまったカズホを、ミーシャは少しだけ寂しそうな顔で見ていた。
「帰らなくっちゃね、あなたの世界に」
違う世界に来たから、思い出せたことがある。
「ああ、帰らないと」
何度も、何度も頷く。
そして、少し豆スープを飲んだ。
温かかったそれは、すでに冷めてしまっていたけれど、やはり美味しかった。
帰ったら――