表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/149

第六章 土獅子-5-

 前衛の者達がエザフォスを抱えて、後衛の弓矢兵はただただ唖然としていた。

 その後ろで、ザフィリは拍手をする。

「これは面白いものが見られた。なかなかないですよ、こんな瞬間」

 近くの兵士に言ってみたが、彼はまだ己の置かれている状況すらも把握していないようだった。

「全く……これだから、普通の人間は面白くない。カズホがここにいれば……」

 ザフィリが言いかければ、エフィアルティスが自ら姿を現した。普段は、彼女が勝手に出ることはなく、こういう時は決まって嫉妬しているのだった。

「そんなに怒らなくてもいいじゃないか、エフィ。僕が本当に愛しているのは君だけなんだからさ」

 ザフィリがそう言うと、大蛇は彼の体に頭を摺り寄せた。その姿はまるで、恋人の肩に凭れかかるようでもあった。

 そんな彼女に、ザフィリも優しく触れる。

「しかし、これはちょっと厄介かな。カズホは火、ミーシャさんは風だったから、僕の魔法はまだ優勢だったが、そこに土の属性を持つ幻獣を宿したあの下種が加わるとなると……」

『あの下種を殺しておきましょう。今なら簡単にできます』

 エフィアルティスが珍しく口を挟んだ。

 水は土に制される。大半の水魔法は、威力が半減かそれ以下、時には無効にされることもあるのだ。

 ザフィリとエフィアルティスは、それを懸念していた。

『元々他者から大切なものを奪う下種です。あの者は、あなたからまた何かを奪う。あなたの怒りと悲しみは、わたしくしのもの。あなたのご命令ならば、すぐにでもあの者を』

 エフィアルティスの淡々とした言葉に、ザフィリは少し考えて、否と答えた。

「殺しておくもいいけれど、あの下種が加わることで、カズホがどうなっていくのかも見てみたい気がするんだ。それに、あれは元盗賊。僕らが手を下さなくとも、悲惨な末路が待っているさ。生きる喜びを再び取り戻した時に奪われる絶望を与える方が、面白いだろう? ねぇ? エフィ」

 宿主の冷酷な笑みと提案に、大蛇は内心で歓喜した。

 また彼が己の元へと堕ちてきた、と。

『あなたの望むままに、ザフィリ』

 優しい毒水が、ごぼりと鈍く音を立てた。

 水の大蛇エフィアルティス・フィズィは、水属性の幻獣の中でも高位の存在だった。それもあるが、彼女の属性以外の性質に、彼女をその身に宿そうとした者は皆苦しみながら死んでいった。宿すことのできた人間は、ザフィリただ一人。


『あなたは、わたしくしのただ一人の恋人』


 暗い闇のような水の底で、エフィアルティスは嗤っていた。

 それをザフィリは知っていた。知りながらも、彼女の元へ堕ちていく。

 だが、喰われるのは、――――

 互いの欲望を毒に変え、二人は再び闇夜へと戻ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ