第二章 傭兵と魔法-2-
一穂は、唖然としていた。
人々は逃げ惑い、街の屈強な兵士達が各々定位置についていた。
「カズホ! あなたも早く家の中へ!」
「でっ、でも……あんなのが襲ってきたら、一溜りもない……!」
「倒すことはできなくても、……せめて、退けるくらいは」
表向きは街の酒場の踊り子をしているミーシャ。だが、本当の姿は街を守るための傭兵だ。
ミーシャの体の周りに、縁色の渦が見えた。それは、束の間鳥の形を成して、少女の周りを再び守る渦の壁となった。
「いくよ、タクシィ・アエトス」
ミーシャがそっと呟く。
この世界には、魔法がある。縁は風の力だという。他の力もあるみたいだが、一穂はまだ教えてもらっていなかった。
ミーシャの家系は、先祖代々風使いだという。
華奢な少女が、と一穂は思ったが、ここ数日彼女の腕前を見ていた。ドラゴン相手ではなかったが、街を狙う、これもまた一穂が見たことのない怪物を退けていた。
怪物は、夜に向かうにつれ、活動を開始するようだった。
今、陽は西に沈みかけていた。どの国でも、世界でも、太陽と月は変わらない。
夕陽を浴びるドラゴンは、さらに赤く、神秘と神気を纏っているように見えた。
「この前よりも強そうだよ? ミーシャ……!」
「だからって、黙っているわけにはいかないでしょ!」
軽やかに屋根へと飛び上がったミーシャは、一穂に一喝する。
「早く中に入りなって! あたしが何とかする!」
茜色の空に緑色の渦が美しく立ち上った。
ドラゴンの金色の瞳が、ミーシャを捉えた。
地上からは、兵士達の矢がドラゴンを撃ち落とさんと放たれ始めていた。が、それが届くことはなかった。
大きな翼が起こした風が、それらをすべて叩き落した。同時に兵士達も吹き飛ばされていた。
悲鳴があちらこちらか聞こえる。
一穂は、恐怖を抱いた。死という恐れ。
「塒へお帰り、ドラゴンさん!」
ゴォと緑風が巻き起こった。ミーシャの渾身の力が、ドラゴンに放たれた。
ドラゴンの大きな口が開かれる。
一穂の中で、ドグンッと跳ねるものがあった。
(なんだ……?)
ドラゴンの喉の奥に、赤々とした火の玉が生まれる。それは、明らかにミーシャを狙っていた。
世界とは、人の数であり、時でもあり、選択肢でもある――