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第五章 初仕事-5-

 役所を出るまで、ミーシャは剥れていた。

「機嫌直せよ。すぐに怪物退治とか、幻獣相手なんて、俺にはまだ無理なんだから、最初は盗賊相手でいいじゃないか。報酬は……俺にはまだこの国のお金の価値が分かんないから、もしかすると少ないかもしれないけど、全部ミーシャのでいいよ」

 ミーシャの機嫌をこれ以上損ねないように慎重な物言いをするカズホから、彼女はふいと大袈に顔を背けた。

「ミーシャ……あっ、ほら、知りたがってた電車のこと、これから教えるから……」

「あなた、人を殺せる?」

 ぽつりと呟かれたそれに、カズホの思考回路は一瞬で止まった。

「え……それは……」

「言っとくけど、あたしは殺せるわ」

「で、でも、生死は問わないって、ルイーズさんは……」

「それは、殺してもいいという意味よ」

 命を奪うことなど、してはいけない。

 それが、カズホの住んでいた世界のルールだ。

 ミーシャが言う。

「カズホ、この世界ももちろん人を殺してはいけないわ。生死を問わないと言われるような輩以外はね」

「じゃ、じゃあ、殺さなきゃいいわけで」

「敵はそんなこと思ってくれない。自分達が生き残るために、殺しにかかってくる。そんな相手に手加減なんてできない」

 ミーシャの言葉は正論で、冷淡だった。

 少女の濃い茶色の眼が、緑色に輝く。傭兵の眼だった。

「今から出発しましょ。明日まで待ってたら、マシャッカ山を通る旅人にまた被害が出るかもしれないわ」

 陽はまだ高い。だが、カズホの足は相当重くなってしまっていた。

「やってみなさいよ」

「え?」

「殺しが嫌なら、殺さないようにすればいい」

 ミーシャが言った。

 カズホだって、それが難しいことは重々承知している。戦いに不慣れだからこそ、加減などできないと分かってしまっていた。

 でも、やはり――

「分かった」

 覚悟をしなければならない。この世界に入れば、いつかは来る時だ。

 険しい顔だが大きく頷いたカズホに、ミーシャは微かだが笑みを見せた。

 マシャッカ山は、南北西と街道に囲まれるサリアの東側にあった。

 山と言っても、岩の塊に近い。荒々しい岩壁を削り取ったような道に、もちろん手摺などなく、ある程度の高さまで登り足を滑らせれば、一溜りもなさそうだった。

 そんなマシャッカ山に着いた頃には、陽は少し傾き、二人の影を長く見せ始めていた。

 盗賊団は主にサリアへ入ってくる旅人を狙うことが多いらしい。東からの輸入物を狙ってのことだろうとミーシャは言った。

「サリアには、各地の高価な品が入ることが多いの。街道に囲まれてるから、商売がしやすいのよ。大抵は腕の良い傭兵を雇うけど、それでも奪われてるってことは、盗賊団もかなり強いと思う」

「不安にさせないでくれ……」

「自分でやるって言ったくせに」

「ごめんってば」

 ミーシャの機嫌は先ほどより少し良くなってはいるが、ちょくちょく嫌味は言われる。

 不安はあるが、それが返って、普段の調子を取り戻させている気がカズホはしていた。

(殺さないように)

 カズホの頭の片隅では、常にそれがあった。

 そして、ミーシャに殺させないように――

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