第五章 初仕事-4-
仕事紹介の受付をしているルイーズという男は、何ともじめじめした雰囲気がある垂れ目が印象的な人物だった。瞼の重たそうな目で、「どうぞ」と書類を見せられると、どんなことも悪い方向へいくのではないかと錯覚しそうだ。
が、別に悪い人物というわけではなく、寧ろ真面目で、仕事はきちんと公平に、がモットーのようだった。
「はじめての仕事、ですか?」
「そうなの、ルイーズさん。何かいいのない?」
しかも、ルイーズはミーシャの知人らしい。ミーシャが新人の時に、お世話になったそうだ。ルイーズは分厚い仕事依頼とカズホを交互に見ながら真剣に探していた。
(でも、やっぱちょっと怖い)
カズホの第一印象の不安などお構いなしに、ルイーズは一つの依頼を提示した。
「マシャッカ山にいる盗賊討伐なんていかがかね? この付近を通る旅人を狙って、金品を強奪しているそうなのです。人間二十人相手ならば、無限に湧くシッキタース街道のサラマンダーよりも相手をしやすいでしょう。盗賊達の生死は問いません」
カズホは人数を聞いてゾッとした。人間相手にだって、喧嘩をしたことがないのだ。
しかし、ミーシャは違った。
「カズホは、サラマンダー相手にも楽勝よ」
「ちょっ、ミーシャ」
ハードルを上げられると、後で大変なことになりそうだったので、カズホは慌てて止めた。
が、すでに遅く、ルイーズは「ほぉ」と物珍しそうに、腫れぼったい瞼を持ち上げた。
「お連れ様は、例の痣持ちですか?」
「ええ。しかも、かなり上位の」
「だから、ミーシャ……」
情けない声を出すカズホを、ミーシャは「なによ?」と睨んだ。
「本当のことでしょ? もっと賞金や報酬の良いしご……」
「やります、盗賊討伐。その仕事を引き受けます、ルイーズさん」
カズホは大慌てでミーシャの言葉を遮った。これ以上ミーシャに任せると、どんどん仕事のハードルが上がりそうだった。
「もう、カズホッ……んぐぅ⁉」
「何かサインとかいります?」
ミーシャの口を急いで手で覆ったカズホは、畳みかけた。
そんなカズホを、ルイーズはまた値踏みするような目で眺めた後、「こちらに承諾のサインを」と、書類を提示した。
サインをして、仕事紹介の受付を離れる際、ルイーズが言った。
「青の傭兵にはご注意を。何やら良からぬ噂があるそうですから。でも、あなたなら、もしかすると」
カズホは、「はあ」と生返事で返すしかなかった。