第五章 初仕事-3-
「あっ、ごめん。つい……ダメね、またつい自分のこと」
「いいんじゃないか? 俺も、ミーシャに俺の住んでるとこを教えたい」
「うん! 後で教えて! じゃ、はやく仕事もらって帰ろ!」
(仕事もらって帰ろ、って)
腕を離さないミーシャにドギマギしながらも、さらっと適当な面を見せる彼女に、カズホは苦笑した。
中に入れば、やはりそこは広かった。多くの人が働き、たくさんの人が何やら手続きをしにきているはずなのに、流れる時はゆっくりだった。
カズホの世界の役所では、常に誰かが早歩きで、誰かが忙しく言葉を捲し立てて、紙が擦れる音やコピー機の稼働音などが溢れ返っていた気がする。が、ここではそれらが一切なく、皆がそれぞれの音を邪魔することなく、調和している感覚だった。
「傭兵の仕事紹介は、あっちだったっけ? 久々だから迷っちゃうな」
ミーシャがキョロキョロしていると、すらっとした体躯の男が近づいてきた。役所の人間ではなさそうだ。
「何かお困りかな?」
整った顔立ちで、歳は二十代前半だろうか。真面目そうでありながら、優雅さのある男。所謂イケメンだ。
(モテるだろうなぁ)
と、カズホはぼんやり考えた。
「傭兵の仕事紹介は、二階でしたっけ?」
ミーシャが問えば、男は仄かに笑みを浮かべ、筋肉の引き締まった腕を上げた。
「ええ。あの階段を昇ればすぐ」
「ありがとう、お兄さん」
「どういたしまして。では、またどこかで」
男はそう答え、踵を返した。その際に、彼はカズホにも会釈をした。
(あぁ、良い男って感じだ)
カズホの働いている会社にいれば、女性社員の注目の的になること間違いない。
ふと横を見れば、歩いていく男の背を、ミーシャも凝視していた。
(やっぱ、ミーシャもイケメン好き……)
「あの人、もしかして……」
カズホの変な心配は的外れで、ミーシャの顔は傭兵のそれになっていた。
「どうかした?」
「あの人も傭兵ってこと。しかも、かなりの手練れ。しかも、……ううん、まだ分からないわね。ただ、一緒に仕事はしたくないわ」
「え? なんで? 心強いじゃないか」
カズホの素直な反応に、ミーシャは「もう」と呆れた。
「分け前が減っちゃうでしょ? それに、良い人そうに見えても、もしかすると手柄を独り占めするような人かもしれない。そうなると、こっちの身も危ないの」
「考え過ぎじゃ……」
苦笑するカズホに、ミーシャはまた頬を膨らませる。
「傭兵たる者、どんな時も慎重に。カズホには、まだまだ傭兵のことを憶えてもらわなくっちゃ」
「頼むよ、先生」
「馬鹿にしてぇ」
「してないよ……ッて、ぃて! 小突くな!」
「そっちだって、ちゃんとそっちの世界のことを教えてよ」
「分かってるよ。だから、小突くなって!」
「ちょっと、そこの君達」
結局中でも五月蝿くし、カズホ達は兵士に注意されたのだった。




