第四章 風使いと宿屋の夫婦
宿屋の一階は、食事処になっている。夜遅かったが、数人の客が食事を摂っていた。
カズホとミーシャも、端の席に向かい合って座る。
「お連れさん、体調はもう大丈夫なのかい?」
座ると同時に、宿屋の店主が心配そうに声をかけてきた。
「あっ、ああ、大丈夫です、ほんと。ご心配をおかけしました」
カズホは申し訳ない気持ちになる。が、こうして見ず知らずの自分を表面上だけでも心配してくれる人物がいることも、素直に嬉しかった。
「これに金はいらんよ。街道を抜けてきたんだろう? 疲れてるのさ」
そう言って、店主は大きなスープ皿になみなみに注いだ豆スープを出してくれた。
この国でのメイン料理は、豆類が多い。痩せている土地で、収穫量を確保できるのは豆なのだろう。
「あっ、羊肉の煮込みと、……」
「芋と豆の炒めもだろう? 分かっているよ。あぁ、そうだ。ワインはどうだい? 最近漸く入ったんだ」
「あたしはいいや。カズホは? 飲む?」
この国では、アルコールは貴重だった。特に、ワインは高級品だ。
「でも、金が……」
「お金は気にしないで。飲みたかったらどうぞ」
まさか、自分よりも年下の女の子にそんなことを言われる日が来るとは思わなかった。
が、久々に飲みたい気もする。
夢を見たからか――
「じゃあ、一杯だけ……」
「ったくもぉ、何遠慮してんの? あっ、おじさん、やっぱボトルでお願い」
「えっ? そんなに飲め……」
「気が変わった。あたしも飲む」
「えぇっ? 飲んでいいのか?」
カズホの常識では、お酒は二十歳からなのだが、この国では違うようだ。
「あたし、もう十九よ? あ、そっか、カズホの国では違ったんだっけ? ここでは十八からもう大人扱い。だから、あたしも立派なオ・ト・ナ。お酒くらい」
――そう、強がっていたミーシャだった、が。
「ミーシャ?」
「ほへぇ?」
「……大丈夫か?」
「だぁいじょぉ~ぶ、だいじょぉ~ぶ」
「大丈夫じゃないな、これは……」
飲ませたことを後悔しても、すでに遅い。
ミーシャはばたんと机に突っ伏してしまった。
「おっ、おい!」
「おやおや、今度はミーシャの方かい?」
慌てるカズホに、店主が苦笑しながら近づいてきた。他の仕事があるだろうに、店主は二人をかなり気にしてくれている。それに、お客を呼び捨てだ。カズホにはそれが気になった。