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第十二章 新たな一歩-2-

「前に、ヴィクトル先生から聞いた。訓練生から魔法使いだと、将来有望だって。現に、あんたがすごく活躍しているから、君もそうなるって」

 ディノスのその言葉に、ヴィクトルが少年にどれだけの期待を持っていたかが伝わってきた。

 だが、それが返って、少年を科目にさせてしまう一つの要因になっているのかもしれない。

 期待に応えたいが、自分の力が憎い。でも、それを使う自分がいる矛盾。

 哀しく、恐ろしい出来事が核となり、少年の日常をすべて狂わせてしまったのだ。

 ミーシャにも、彼の深い哀しみは分かる。でも、分かったつもりではいけないのだとも思う。

 再び口を開くミーシャを、ディノスは止めなかった。

「風使いの傭兵だった父と、あたしはこの街に逃げてきたの。父は、その、……罪を犯して

しまって、傭兵の仕事も役所から引き受けることができなくなった」

「逃げている間、どうしていたの? 仕事は、受けられなかったんだろ?」

 はじめて、ディノスがミーシャに訊いた。少しだけ驚いたが、ミーシャは続ける。

「個人から仕事を引き受けて、父はあたしを育て、守ってくれていたの。それでも、ご飯も食べられない時があった。着てる服も……臭いがするボロばっかだったな」

 ミーシャが嫌そうな顔で肩を竦めれば、ディノスがまたはじめて苦笑した。

「先生、派手だから、子どもの頃からそうなのかと思った」

「派手って何よ? オシャレって言って」

 ミーシャがそう返せば、ディノスは少し笑った。

(あ、笑ってくれた)

 嬉しくなり、ミーシャも仄かに笑った。

 こうして自分の過去を自ら人に話すことなど今までなかった。カズホにさえ、自分の口から言えていない。

 それを、今自分と同じような境遇の少年に、ミーシャは話す。

「この街に流れ着いて、あたし達は最愛の友人達に出会った。宿屋のご夫婦に。今では、あたしの育ての親よ」

「え? お父さんは?」

 ミーシャは微かに目を伏せる。

「どこかで、生きているみたい。最近知ったわ」

「そうなんだ……」

 ディノスも肩を落としていた。

「教えてくれたのは、あたしの中にいるタクシィよ。タクシィは、あたしの風でもあり、あたしの、……大切な人を奪った幻獣でもある」

 ディノスが、信じられないといった顔をした。そして、ミーシャの紡ぐ一字一句を聞き逃さないようでもあった。

「父は、十一歳のあたしを宿屋の夫婦に預けて、またどこかへ行ってしまった。それからしばらくして、タクシィだけがこの街に戻ってきたの。大嵐と共にね。タクシィは、この街で破壊の限りを尽くし、たくさんの人の命を奪ったわ。その中には、あたしを育ててくれたお母さんって呼べる女性も……今でも憶えてる。忘れたいのに、決して消えないの。タクシィが壊した壁が、あたしとお母さんのいる宿屋の部屋に吹っ飛んできて、お母さんは、あたしを守るためにその下敷きになって……亡くなった」

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