第十一章 大切な想い-4-
宿屋に戻れば、すでにみんな戻ってきていた。
今夜は、ゆっくりとご飯が食べられそうだ。
『ミーシャ! 聞いてくれ! あそこの大きな通りで、老婆を転ばした悪い奴らを、俺様とタクシィで倒してやったぞ!』
「えぇ⁉ ま、まさか魔法を使ったんじゃないでしょうね?」
『使った』
それはまさかのタクシィからの返事だった。
「ちょっ、ちょっとぉ~……」
宿屋に戻っても、子どものような幻獣達がいて、ミーシャの先生スイッチはずっと入りっ放しになった。
「駄目でしょ!」
『いや、ちゃんとエザフォスに見ていてもらったから大丈夫だ』
「へ?」
パンを齧りながら、エザフォスは頷いていた。
「そうそう、こいつらが変な兄ちゃん達を追いかけて、武器屋の前までやってきてよ。『いいか?』って訊くもんだから、ついな。『いいぞ』って答えちまった」
「答えちまった、じゃないわよ、もう……!」
それに加えて、暢気なおっさんまでいるという。
でも、ここに戻れば、変なことを考え過ぎに済む。
アベレスがまだ何か話しているが、ミーシャは「はいはい」と苦笑して答えた。
それくらいが丁度良いのだ。
全部を全部聞かなくても、一緒にいればいるほど、それが分かる。ただ聞いてほしいという思いだけを酌むことが、大事なのだと。
が、ミーシャはただ一つ、気がかりだった。
カズホが上の空だったことだ。
いつなら、「おかえり」と言ってくれて、「どうだった?」と仕事のことを聞いてくれる。アベレスとタクシィを叱るミーシャを微笑みながら見ていてくれる。
だが、今の彼は、どこか別の場所へ行ってしまったかのよう。ここにいるのに、ここにいないような感覚。
話しかけたいのに、どうしてだか声が出なかった。
(誰か……別の人を見ている、みたい)
ミーシャは悲しくなった。
なんでこんなにも悲しいのか分からない。
部屋に戻るまでに、カズホから少しでも声が聴きたくて、ミーシャは人知れず、努力をしたのだった。




