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第十章 それぞれの時間-19-

『臭いからして、もしやと思っていましたが、やはりあなたでしたか。アイオーニオン・ソフォス』

 名を呼ばれたそれは、――いや、それらは、またざわざわと、ザフィリとエフィアルティスに多くの視線を向ける。

 アイオーニオン・ソフォスの姿は、多くの人の顔を甲羅につけた大亀だった。それらは、何やらずっと囁いている。が、言葉として聞き取れるものは、どれ一つしてなかった。

「こんなにも注目の的となるのは、さすがに居心地が悪いな」

 ザフィリの声に、本体らしい亀の頭がぬぅっと伸び、緩慢に目を前を見やる。その円い目は、前を見ているというだけで、何かを捉えているわけではなさそうだった。

 が、アイーニオンは、周囲のことが分かってもいるようだ。

『また、宿主を変えられたかな? エフィアルティス・フィズィ。ふぅむ、これは、また美しい毒を、見つけたものだ』

 これには、ザフィリも珍しく瞠目した。

「僕らに話しかけてくる幻獣がいるとは、思いませんでした」

『この名刺柄お方は、わたくし達よりも、人に近い存在なのです』

「え……?」

 確かに、人の顔を数多背負ってはいるが、見た目からは全く想像できない。

 こんなにも驚くことが続く日があるとは――いや、最近は多いかもしれない。

 それは、カズホと出会ってからだ。

 異世界から来たという彼が天となり、様々な時を結んでいる、そんな気がする。

 アイオーニオン・ソフォスは、もう一度ザフィリを見た。ただただ黒い穴のような眼に、ザフィリの姿が浮かんでいる。

『永遠が、ほしいか? 美しき毒水よ』

 永遠。すべての欲の究極のような言葉だ。

 だが、ザフィリはそれについて何も応えなかった。

『儂は、ほしい……欲しかった。だから、数多くの者を犠牲にした。家族も、仲間も、夢も、希望も、絶望や哀しみでさえも……』

「あなたは、……まさか、人だった、存在?」

 だから。

『そうです。あの者は、人に近く、最も人から離れた――人間だった』

 ザフィリは、衝撃を覚えた。

『戻りたいとは、思わぬ。が……重い……背中が、重いのだ』

 ざわざわ、ざわざわ。

 声がする。

 すべてを犠牲にした、代償。罪というべきなのか、罰というのだろうか。

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