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昼食終わり

「ふぃー、ごっそさん。」


 タータが昼食を片付け終わって、ふぅと息を吐く。驚くたびに箸が止まっていたチェーブの料理はまだ残っていた。


「そっちが先に食い終わるとは思わなかったぜ。すぐに片付けるから。」

「ゆっくり食えよ。味を楽しむってのもいいもんだぜ。」

「タータさんからその言葉を聞くとはな。」


 チェーブは肩をすくめながら肉の串焼きを頬張っていく。痛むはずの左腕も使っている。手にしたものが軽いものであれば我慢できる程度なのだろう。料理はあっという間に片付いていく。


「そういや腕を治してくれたの、魔法じゃないって言ってたけど。」

「あぁ、それな。なんつーか・・・。」

「やばい何かなのか?」

「ありゃ、“腹の底から出る力”なんだわ。」

「えぇ?!いやでも、ありゃあ馬鹿力が出るってだけだろ?」


 “腹の底から出る力”とは、危機的状況で発揮される怪力のことだ。火事場の馬鹿力、潜在力、力の開放など他にも呼び方はあるが、狩猟者にはそう呼ばれていた。その力がどこから来るのかは分かっていない。危機的状況で稀に怪力を発揮して助かることがある。その程度の認識だ。


 生死の境に身を置くことが多いからか、狩猟者の一部はその源泉がどこにあるか、大雑把にだが知っている。それが腹だ。一流であれば状況次第で、危機でなくても使える者もいる。一般人と違って常に怪力であることも関係しているのかもしれない。


「それだけじゃねぇんだよ。俺も前の身体だと、さっきみたいなことは出来なかった。せいぜい自由に力を増せるぐらいさ。」

「それも出来るヤツなんていないだろーに。」

「ウースだってやってるぜ?アイツは意識してなくても勝手にそうなってんだがな。」

「マジかよ。かぁー、俺もまだまだだな。さすがにそこまでは出来ねーや。やっぱ2人は別格だ。」


 数多の狩猟者が集うギルドでもタータとウースの強さは飛び抜けていた。特にほぼ単独で活動していたタータは、いくつもの2つ名を持つほどだ。もっとも一般的に有名なのは、チームで活動しているウースの方だが。


「あんま持ち上げんなよ、気持ち悪ぃ。お前だってある程度使えんだろ?」

「あー、まあな。今は危ねぇときだけじゃなくて、逃しちゃ不味いってときも力が出るようになったよ。」

「力の出処は分かるようになったか?」

「やっぱり腹だな。そっから一瞬で体中に力が駆け巡る気がする。」

「そうだ。その力ってのは魔法使い曰く、生命の力、だそうだ。生き物が持つ根源の、生きようとする力だってよ。」

「生きようとする力、か。死にかけで出るのはそれでか。獣も仕留め損ねた方がしぶといもんな。」

「あぁ、そういうこった。」


 狩猟者に限らず、村人や貴族も普通の獣を狩ることもある。害獣駆除や食料確保に道楽だったりと理由は様々だが、追い詰められた獲物の底力を見る機会は多い。思わぬけがをするのは大抵そういうときだ。タータは人差し指を立てながら、さらに話を続ける。


「もう一つ、こいつは身体を頑丈にする。そして治そうとする力でもあるんだ。不思議に思ったことはねぇか?俺らがあんだけ重い武器振り回せること。」

「ただ力が強いってだけだと思ってたけど。」

「身体は一緒なんだぜ?狩猟者の武器なんざ大の男でも持ち上げるだけでやっとだ。振り回せても勢いで関節が外れるし、筋が伸びるはずなんだ。筋肉だって切れる。程度の差はあれ、俺らは無意識に使ってるから無事なのさ。」

「なるほど・・・そういやベテランの狩猟者って怪我の治り早いもんな。そのせいか。」

「そうだ。無茶する身体を支え、多少の綻びは治すのがこの力だ。それがあるから狩猟者はやってけるのさ。」


 チェーブは深く頷く。これは弟子への教育なのだと察していた。独り立ちした後も自身が知った新しいことをよく聞かされたものだ。


「あと、こいつがいわゆる“気配”でもあるんだ。生き物ならみんな持ってる。俺が気配を感じるのを磨いてたから、意識して使えるようになったんだろうって魔法使いに言われたぜ。」

「おー、そりゃいいこと聞いた。“振り払う斧”にいたときはあまり使わなかったけど、これからは必須になりそうだ。」

「ただ弱点があってな。」

「ん、なんだ?」

「これってメチャクチャ腹が減るんだ。まぁ腹から出る力なら道理なんだろうけどよ。」

「その割には飯少なかったな。」

「ありゃ、お前の力を使ってやったのさ。この身体になって、他人のも扱えるようになったからな。食い終わったところ悪いが、たぶんその量じゃ足りねぇぜ?」


 タータが皿を指差し、意地悪く笑う。たしかにチェーブは物足りなさを感じていた。3人分を食べ終わったはずなのに、小腹が空いてる。


「くー、確かに食い足りねー。帰りに屋台でなんか買うか。」

「そうしな。気配を探ってると慣れるまでは腹が減るから、それを鍛えるんなら多めに買っとけよ。」

「あいよー。んじゃ、出るかね。」

「あぁ。奢ってもらって悪いな、ごっそさん。」


 2人ともに席を立つ。相手に原因があってもきちんと礼を言うあたり、タータらしいとチェーブは小さく笑った。


「なーに、余計なこと言って楽しんだんだ。丁度いい対価さ。」

「いたずらにそこまで価値があるかねぇ。ちゃんと相手は選べよ?」

「わかってるさ。えらい目にあったこともあるしな。」

「あー、貴族をおちょくったアレか。」

「そうそう。1ヶ月とはいえ鉱山はしんどかったぜ。」


 昔チェーブは、相手を爵位持ちの貴族だとわかった上で、いたずらしたことがある。平民にはいちいちキレないと知っていたから、笑って許してくれると思っていた。たが、その貴族はその場では咎めなかったが、後日冤罪をでっち上げた。


 領主の覚えのいい“振り払う斧”のメンバーでなければ、数年は鉱山労働をしていただろう。さすがにチェーブも懲りたようで、貴族やそれに連なる人にはちょっかいをかけないようになった。もっとも、尊敬してるはずの師匠には平気でやるのだが。


「じゃあ俺は鍛冶屋と仕立て屋に行くけど、タータさんはどうするんだ?」

「中央付近にゃ行きたくねぇし、今日は宿とってから裏路地をうろついてみるさ。久々の街だしな。」

「明日は金を取りに来るんだろ?昼前に用意しとくよ。」

「あぁ頼む。そうだ、“ルクラとピエーレの店”はまだやってんのか?革鎧だけでも依頼しときたいんだが。」

「やってるよ。注文が立て込んでるかもな。弟子が戦争で稼ぎに出たって嘆いてたぜ。」

「革職人もか。ほんと戦争ってのは下らねぇ。まぁ行くだけ行ってみるさ。」

「あいよー。じゃあ明日な。」

「おぅ。」


 2人は軽く手を挙げて別れた。チェーブは表通りへ向かい、タータはそのまま裏路地を進む。タータは無意識に笑顔になっていた。2年ぶりの住み慣れた街はほとんど変化がなく、懐かしい気持ちと安心感をもたらしていた。


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