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かかってる魔法

 タータは嬉しいような、恥ずかしいような表情で少し大げさに一息つくと、鉈を軽く振って感触を確かめた。そして満足げに頷いて、外套の下の鞘へと鉈を戻し食事を再開する。


「一瞬で消えるのかよ・・・。」

「あれでマーレとリースを届けてくれたんだ。心臓に悪いから止めてくれって言ったんだけどな。聞いちゃくれねぇ。」

「なんつーか、魔法ってああなのか?」

「何がだ?」

「もっと貴族が使うみたいに、光ったり風が吹いたりするもんだと思ってたんだけど。」


 貴族が魔道具を使えば刻まれた魔法陣が光る。陽の光の下であれば分からない程度だが、日陰や室内、森の中であればすぐに分かるし、強力な魔法であればそれに比例した強い光になるのが普通だ。風も同じで、強力であるほど強く吹く。しかし魔法使いの魔法には、そういった周囲への影響が一切なかった。


「いつもあんな感じだな。光ったりしてんのは見たことねぇ。」

「物は浮かすわ、鉄は溶かすわ。今この目で見たってのに信じらんねーよ。」

「俺の言った通りだったろ?」

「鉄が溶けてんのに熱くねーってなにがなんだか。」

「ホント呆れちまうよな。」

「しかも来た理由が、鉈を取り返しにってのが一番分からねーよ。」

「アイツは不思議なこだわり持ってんのさ。生活に必要なことはなるべく魔法を使わずにやるってな。」


 パンに続きポトフを片付けたタータがパイに手を伸ばす。チェーブは驚きのせいか、食事に手を付けるのを忘れていた。


「薪割りもするし、庭の雑草取りや掃除も手作業だ。料理も作ってた。ほら、お前も早く食わねぇと冷めちまうぞ。」

「あ、おお、そうだな。しかし今日は驚きっぱなしだ・・・。1年分は驚いたんじゃねーかって気分だ。」

「気持ちは分かるぜ。俺もしょっちゅう驚かされてた。」

「やっぱ魔法のホウキとかあんのか?」

「掃除は自分でやってたから、それは見たことないな。でも動く人形はいたぞ。あとは喋る猫もいたな。」

「ほへー、そりゃすげえ。御伽噺そのままなんだなあ。あっ・・・。」


 食事を再開したチェーブだったが、ふと気付く。熱がないとはいえ溶けた鉄は眩く光っていた。周りを見渡しても店内で騒ぎは起こっていない。まるで何も無かったかのようだ。甘味を堪能して幸せそうな顔のタータに思わず尋ねる。


「なあ。あんだけ光ってたのに誰も騒いでないんだが、これも魔法か?」

「たぶんな。」

「そりゃ・・・つまり堂々と覗き放題か。」

「シモから離れろっつの。」

「いきなり出てくるし、すげーな。御伽噺によくある、王を操るとか国を滅ぼすなんて簡単にできんじゃねーの?」

「出来るけどやる気はないって言ってたな。わざわざ他人の面倒みなきゃならねぇ王様とか国とかには興味無いってよ。」

「そこはちょっと同意するわ。そんな力ねーけど。」

「俺もだ。」


 2人はどちらともなく笑いあった。


「誰も気付いてないし、これじゃ何かされても絶対分かんねーな。」

「今だって魔法にかかってるの分かんねぇだろ?」

「左腕治してくれたことか?」

「それは魔法じゃねぇよ。」


 パイをほとんど平らげたタータが水を1口飲んでから続ける。


「正確には、俺にかけられてる魔法に誤魔化されてる、って感じだな。」

「んん?何か見た目と違うのか?」

「いんや、見た目はそのままだ。俺の服装見てオカシイと思わねぇか?」

「見た目?お嬢ちゃんってこと以外は普通に見えっけど。」

「それが魔法なのさ。俺は自分が女だって言ってねぇ。でもみんな勝手に女だと思っちまう。」

「あー・・・そういやそうだな。男物だもんなソレ。スカートでもねぇし、髪飾りもないか。1つ1つ見ると女には見えねーな。」


 後ろでまとめられた赤髪は肩より少し下程度で、同じ年頃の男児でもよく居る長さだ。外套にかなり隠れてるとはいえ、服装は明らかに男児の履くズボンだった。


「だろ?ガキだから服装以外、見た目じゃどっちか分からねぇのが普通なんだ。でも俺を見ると、みんな何の疑いもなく女だと思い込む。」

「ほー、言われてみればそうだよな。確かに女だって思ってた。」

「あっちでたまに村や街に行くこともあったんだが、全員から何の疑いもなく女扱いさ。違うって言っても信じねぇ。もう否定するのも面倒で止めたけどな。」

「なんでまたそういうことになってんだ?」


 チェーブの当然の疑問にタータは顔をしかめ、言い難そうに切り出した。


「俺はな・・・魔法使いの前で女の悪口言っちまったんだよ。そしたら、女がどれだけ大変か知っておくといい、ってこうされた。」

「お仕置きされたってことか。いったい何言ったんだよ。」

「女ってのは下らねぇとか、簡単に裏切るとか、口が本体かアイツらとか、まぁそういうよくある話さ。」

「そんなことでか、容赦ないな。魔法使いって女なのか?」

「いや。俺もそうだが性別がねぇ。昔は女だったことも男だったこともあるって言ってたな。どっちもそれぞれ大変なんだって説教された。」

「想像もつかねーな。しかしすげーな、魔法って。」

「お前も気をつけろよ?余計なこと言うと、妙な目に合わされる。そこも御伽噺そのままなんだ。まぁ、もう会うこともねぇとは思うがな。」


 どうやら忠告だったようだ。タータは他人の失敗を根掘り葉掘り聞いたり、言いふらしたりはしない。だが、弟子には自分の失敗をよく聞かせていた。話すときはいつも嫌な顔をしていたが、失敗談が弟子を助けると思ってるのだろう。


「ほんじゃあ女に見えてるだけってことは、ナニは付いてんのか。良かったじゃねーか、無くなんなくて。」

「棒も穴もねぇよ。性別は無いって言ったろ。そういう身体だ。」

「んがっ?そりゃまた・・・なんか、すまねえ。」

「いいさ。もう慣れた。魔法使いは人の体をつくれるんだ。ガキを残す必要もねぇんだろうな。」


 パイを片付けたタータが外を眺めながら発した言葉は、少し悲しそうに聞こえた。


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