第二話 アイ・アムニホンジーン
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「エルフを見るなり、残念とは何事ですか!」
「だって自己紹介が…ねぇ…?」
「そんな、自分でも自覚してるんでしょ?その痛々しい設定。みたいな顔で同意を求めないでください、私だってそれなりに自分で可愛いと思いながらも、この自己紹介はどうなのかなって思ってるんですよ!!ちくしょう!!」
地面を蹴り上げ、自分の内情をペラペラ喋るツッコミエルフことフィーネ。
俺は更に痛々しい可哀想な子を見る目で自称エルフを見る。
「保存食として燻製した鹿の肉いるか?」
「急に優しくならないでください!もらいます!」
「貰うのかよ…」
「貰えるものは貰っておくのが私の主義です」
「食べるのか喋るのかどっちかにしろよ」
「もぐもぐ」
「食べるのかよ…」
「ごっくん、味はまあまあですね。塩味が強すぎます。それに硬すぎです」
「貰った挙句に文句だと!?」
俺の中で『自称美少女の痛々しくて可哀想な女の子』が『自称美少女の痛々しくて図々しい可哀想な女の子』に変わる。
「それにしても、珍しいですね。私と同じく家出ならぬ世界出ですか?」
「なにがだ?」
「こっちの世界に逃げてきたのでは?」
「俺はこの世界の生まれだが?」
「?」
「?」
話が噛み合っていないのが目に見えて分かる。互いに頭の上に?を浮かべ、小首を傾げ合う。
「アナタ、ニホンジン?」
「イエースイエース、アイ・アムニホンジーン」
「うええええええええええ!?」
「自称美少女が出していい声では無いな」
どうやらフィーネは、俺を別種の異世界人だと勘違いしていたようだ。
こちらを指さして口をパクパクと開閉。眼球が飛び出そうなほど目を見開いている。
「え、え、え、でも!魔力、魔力があるじゃないですか!」
「魔力…?あの、良くゲームとかで出てくる?」
「『げぇむ』はよく分かりませんが、意味合いとしては伝わっているはず!!なんでニホンジンである貴方の体に魔力が!?ありえない!絶対にありえない!!何者なんですか貴方は!」
「アイ・アムニホンジーン」
「それはさっき聞きました!魔力のあるニホンジンなんて聞いたことありませんよ!おかしいです!」
「そう言われても…」
身に覚えに無いことを『ありえない』だの『おなしい』だの言われても、どう反応していいか分からない俺。
それもそうだ、本当に身に覚えに無いのだから。
「まさか…二十年前に最初に送り込まれた『エリート』達との半魔?貴方、父親か母親は!!?」
「父親は昨日、異世界に召喚された。母親は、俺が二歳の時に夜逃げして、今どこにいるのか分からないそうだ」
「貴方、今何歳ですか?」
「今年で十七だが…?」
「やっぱり、それしかありえません!」
未だに?を頭の上に浮かべる俺を置き去りにして、一人で納得した様子のフィーネ。
正直、説明が欲しいものだが、この様子だと聞いたところで説明してくれなさそうな雰囲気だ。
「…!」
「どうかしたの…《飛竜》か」
一人でブツブツと呟いていたフィーネの長い耳が、ビクンッと大きく反応する。
一拍遅れて俺もフィーネが反応した理由を察知し、すぐ様拠点へと引き返すために走り出す。
なにより、エルフの耳には、高性能な危機察知機能が耳に搭載されているのではと疑いたくなる。ここ半年で常人よりも微かな音を拾えるようになったの耳よりも先に《飛竜》の飛翔音を聞き取るとは凄まじいな。
「隠れないんですか!」
「あの距離なら拠点に帰った方が見つかりにくい!隠れるなら一人で隠れてろ!!」
「こんな美少女を一人残して安全な場所に行くなんて男としてどうなんですか!」
「その自称美少女様を生贄にしたら、暫くはおとなしくなってくれるかもしれないからな!俺的には万々歳だ!」
「むきっー!ああ言えばこう言う!その口は、ひねくれたことしか言えない呪いでもかかってるんですか!ああ、やっぱりそうなんですね!可哀想に!」
「まだ何も言ってないだろ!」
森の中を駆け抜ける俺とフィーネ。
俺は、森の中を走るのは慣れているが、森の中を走るというのは存外難しい。
木の幹は無造作に配置されているため走りにくいし、そもそも地面の固さが一定ではなく、凸凹も多い。しっかりと母指球に力を入れていないと簡単に足を取られてしまう。
「それにしても、走り慣れているんだな!」
「エルフの住処は森です!貴方よりも慣れていますよ!」
拠点である場所の柵を乗り越える。息を整えるために、そのまま柵を背にして身を隠す。
「はぁはぁ…それにしてもここは?」
「ふぅ…俺と父さんが作った拠点だ」
「…道具が乱雑としているだけにしか見えませんが」
「家は地下なんだよ。こっちだ隠れるぞ」
地上は、柵に囲まれた木の机や椅子が乱雑に置かれているだけ。普段は何か作業をする時に使う場所なので、特に物は必要無い。
「あ、待ってくださいよ」
俺は、少し盛り上がった土の上に乗っけてある木の蓋を取る。
蓋を取ると、人が一人通れるほどの穴があり、ここから縄ばしごを伝って降りると中の家に入れる。
「あ、スカートの中を覗いてもいいですけど、色は言わないでくださいね。恥ずかしいのでって…もういないし…」
「興味が無いと言えば嘘になるが、俺にも見るものの権利くらいはある」
「私のは見るに耐えないというのですか!それにしても、よく地下に家を作れましたね。雨が降ったら崩れそうなのに」
「入口が少し盛り上がってたろ?あそこを中心に、家の上の部分と壁には山の中にあった粘土を使って雨が入らないようにしてるんだ。盛り上がってる場所は、酸素を取り入れるために軽く蓋をするだけ。盛り上がってるから雨は気になるほど入ってこないから崩れる心配もないってわけだ」
「へー、考えてあるんですね」
「俺じゃなくて父さんだけどな」
「確かに貴方には無理そうです」
「喧嘩売ってるのか、買うぞ」
壁に設置してある、これまた手製のロウソクに火を付けて灯りを確保する。
ここで暫く身を隠せば大丈夫だろう。
「これは……」
「ああ。父さんの資料が散らかってるが気にしないでくれ。よく分からん外国の文字で書かれてるから、俺は読めないし、明日あたりに処分するつもりだ」
「魔術言語…これも、これも、凄い…」
フィーネは、机の上に散らかった紙の山を何かに取り憑かれたように何枚も何枚も見続ける。
「それ分かるのか?」
「分かるも何も、これは私の世界の言語です…あの、これ少し貰ってもいいですか?」
「俺にはどうせ分からないからいいぞ?」
「……タダでもらうのは悪いので、貴方の事と、今ここで起きていることを少しだけ教えます」
この時俺は楽観していた。
まさか、この世界に、自分自身にそんな秘密が隠されていたなんて思いもしなかった。
フィーネから告げられた少しの事実は、俺の人生を大きく変えたものだった。
二話目です。毎日投稿と掛け持ちしているので、週一投稿がとても遅く感じます…早く慣れなければ…。




