第一話 超絶可愛い美少女エルフのフィーネちゃん
掛け持ち連載です。
よければ、もう一つの作品の方にも目を通して頂けると幸いです。
昨日の夜、正確には十時間前、俺の知る最後の日本人である父が異世界へと召喚された。
最初に、日本人が異世界に召喚されたのは今から八年前。東京のスクランブル交差点に突如出現した魔法陣に、合計二百三十名が異世界へと召喚された。
それ以降、毎日絶える事無く日本各地で老若男女問わずに転生、転移を魔法陣を介して行われた。
「大阪事件から一年、ついには父さんも…もう、日本には俺だけしかいないのかもしれない…」
川で顔を洗い、目の下に隈を作った自分の顔を見つめる。
極々平凡な顔つき。つい半年前までは、勉学に励み、少しの友人と、部活仲間と共に高校生活を送っていたはずなのに、今では山の中でのサバイバルに近い自給自足の生活。
「やばっ…!」
そして、魔物に怯える日々。
我が物顔で、空中を浮遊する体長三メートルは優に超える《飛竜》。
銀色の体に、肉食獣のような鋭い牙、翼を折りたたんで急降下するスピードは、百キロを超える。
人々が異世界へと召喚される代わりに、地球には、魔物と呼ばれる世界でも確認されていない、禍々しい見た目をした化け物たちが召喚された。
日本の人口は、一億数千人。その全てが異世界へと召喚された今、日本には一億を越える様々な魔物が跋扈している。
「ふぅー…ここら辺に巣でも作ったのか?」
息を殺し、木に紛れて《飛竜》をやり過ごした俺は、胸を撫で下ろす。
魔物にも個体差があり、兎ほどの大きさから、今の《飛竜》のような空飛ぶ戦車のような大きさのものもいる。
人ほどの大きさの魔物ならば、見つかっても逃げたり、倒したりできるが、あれ程の大きさになると、流石に身を潜めずにはいられない。
「あれ…こんな所に穴なんてあったか?」
ふと、目線の先に人が入れるほどの横穴を見つける。自然に作られたものではなく、明らかに人工的に掘られた穴だ。
「まさか、魔物…?《飛竜》に続いて、大型の魔物が住み着いたら、ここには居られないな…」
今、俺が暮らしている山は、かなり住みやすい条件が揃っている。
緩やかな傾斜、人が飲めるほどの綺麗な湧き水、身を隠せるほどの大きな木々に、自然に育った果実など、これらの条件を満たす山を探すとなると、次が見つかるまでの間、身を危険に晒すことになる。
できれば、移動したく無いのだが……
「……探ってみるか」
腰に携えていたサバイバルナイフを抜き、恐る恐る穴の中へ身を屈めて進んでいく。
薄暗く、肌寒い洞窟は、思っていたよりも深い作りになっていた。
「……」
息を殺し、目が慣れるまで時間を置く。
横穴は、一定の大きさを保っており、時間と少しの道具さえあれば一人でも掘れそうなものだが、壁の頑丈さを見ると、なんらかの《個性》を使っているのだと分かる。
ちなみに《個性》とは、魔物が使う特有の技的なもので、マジシャンが使うような科学を全否定したものを使う。
例えば、火を吹いたり、岩を自在に操ったりなどだ。
目が慣れ始め、俺は、再び穴の奥へと歩みを進める。
「……!」
(あれは…子供?死んでる…いや、倒れているのか?)
少し進むと、行き止まりが見える。が、その下に体を丸めた人の影を見つける。
最初は死んでるいると思ったが、呼吸音が聞こえたため、生きているのだと断定できる。
「おい、大丈夫か!?」
サバイバルナイフを腰の鞘に戻し、俺は、その人に駆け寄り、体を揺する。
この時、俺は、判断を焦っていた。
半年間共に山で過ごし、唯一残った肉親の父を昨日失い、日本人が俺だけかもしれない。そんな気持ちが俺を焦らせた。
この軽率な判断を、俺は一生後悔し、感謝することになる。
☆
「んむぅ…」
「意識が戻った…?体が冷えきっている。何か温めるものは…!」
「…なんですか?人が気持ちよく寝ている時に…」
「寝て…いる?なんだ、寝ていただけか」
丸まっていた体が、俺の声に応えるよにムクリと起き上がる。
最初、子供だと判断した俺だったが、声音から小柄な少女だったと分かる。目が慣れたとはいえ、姿形をハッキリと見ることはできない。シルエットでなんとなく判断したに過ぎないため、まだ不安は残る。
「君が気絶していると思って声をかけたんだ。睡眠を妨害したのなら、ごめん。悪気は無かったんだ」
「もう…もう一回寝るのもあれだし、外出ようかなー」
女の子は両手を組み、頭の上へ伸ばすと、立ち上がって穴の外へ歩いていく。
「おい、ちょっ、待ってくれ」
「そういえば君はここに何を目的にきたの?」
女の子は、振り向きながら少しの暇つぶしのためか、俺に話しかける。
「ここ…?」
(山の中になんで来たかってことか?)
「そりゃあ水も豊富だし」
「うんうん、確かに凄いよね」
「食料も豊富で、美味しいし」
「確かに、この世界の食べ物は美味しいよね」
「世界…?」
「んー!今日もいい天気だ」
穴を抜け、太陽の光に手を伸ばして目を細める女の子。その瞬間、俺は目を奪われた。
編み込みの入った金髪を腰まで伸ばし、手足がほっそりしている。まさに理想のモデル体型。
ほんのり染った頬に、色白の肌。端正な顔立ちは、芸術品のようだ。
そして…
「ハ、ハロー…マイネームイズ、キョウヘイ、マサカ」
「なにそれ、新しい魔法言語か何か?」
一つ分かったことがある。
俺がカタコトの英語で自己紹介をしたのも意味があり、俺は今、現実を受け入れたくない状況にある。
少女の耳は横に伸び、先端がツンと尖っている。
人間では有り得ない程に。
「魔物…!!」
俺は、腰から再びサバイバルナイフを抜くと、その場から飛び退き、少女と距離を取る。
(くそっ、油断した!ここまで人に酷似した魔物は初めてだ!)
「失礼な!私はエルフ、超絶可愛い美少女エルフのフィーネちゃんです。魔物なんて下等生物と一緒にしないでください!」
フィーネと名乗った少女は、頬を膨らまし、平らな胸を張って怒り始める。
そして俺は確信する。
「あ、こいつ残念で大丈夫なタイプの奴だ」
ゆっくりまったりやっていこうと思っています。




