C・P・A ~最期の一秒まで~
担当になって数日
朝の申し送りは、夜勤担当者からの引き継ぎだけで特に変わったことは無かった。
ワゴンをカラカラと押して、指導看護師と共に病室へ向かう。
ワゴンには、体温計・血圧計・医療用手袋・聴診器、そして処方されているモルヒネ。
講義の時、習って知ってはいたが、モルヒネを目の当たりにして自分の担当患者様が使うなんてことは、一生無いと思っていた。
モルヒネでしか抑えられない痛みと闘う患者様を看取る実習。
目前に死が迫っているだなんて、考えられない穏やかな雰囲気がここにある。
「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
そういう自分は「看護実習記録」や「看護計画」など真夜中までかかって仕上げて寝不足なのに担当患者様には、明るく声かけするように努めている。
「夜中に痛みが酷くてね、モルヒネしてもらったらグッスリ寝たよ」
と教えてくださる。看護記録にモルヒネ使用と記されているから知っているが
「そうでしたか。大変でしたね。 検温してもいいですか? その後、血圧と脈拍を測らせてくださいね」
と、声をかけて体温計の終了を待つ。 体温をチェックして看護記録に記す。血圧を測り脈拍を測る。
死に向かっているなかで脈打つ拍動は弱々しい。
感傷に浸ってはいけない。
泣いたらいけない。
心を乱してはいけない。
顔に出してはいけない。
にっこり笑って、小さくうなずく。
看護記録に書き記す。
今日の実習も無事に終える。 いつものように挨拶に病室に向かう。
「また、明日来ますね」
「がんばって、生きておくよ」
笑って手をふってくれた。
翌日、いつものように申し送りで意識レベルが下がっていることを伝えられた。
「もう、電子血圧計では測れません」
その時が近いことを示す幾つかの兆候を申し送りと看護記録で確認する。
平常心を心がける。
「おはようございます」
「お……は……よぅ」
掠れた声でゆっくりと返事をしてくれました。
もう何もすることがなく看取ることの大切さを学ぶ看護学生。
寝ているのかと思うほど、穏やかな最期だった。
反応はなくても、きっと私達の声は聞こえているはず。
私に言葉をかける機会を与えてくださるご家族の皆様。
「菜須さん、あなたも何か声をかけてあげて」
「拙い看護でしたが、笑顔をみせてくださってありがとうございました。しっかり勉強して看護師になりますね」
最期のとき、主治医の傍に指導看護師と立ちモニターを見つめていた。
「サチュレーション振れません」
主治医が最後の診察をする。そして死亡宣告をする。
看護学生として患者様の最期に向き合った。そして最後の記録を看護記録に記入した。
☆ サチュレーション ☆
酸素飽和度のこと。血液中に溶け込んでいる酸素の量であり「%」で示される。
健康であれば99%近くの値になる。呼吸器官に異常があると体内に取り入れる酸素が減ってしまうためサチュレーションが低下する。
☆ C・P・A ☆
心肺停止