喜助との友情
しばらく家の前でふたりで座り、暗い海の向こうに見える明るく光る不夜知島を眺めていると喜助が口を開いた。
「なあ、徳。これが、終わったら、俺らは本格的に家業の手伝いをすることになる。そしたら、今までみたいに遊んだりもできなくなるのかな。」
喜助は少し寂しそうにいった。
「昔、俺がいきなり徳のところを訪ねた事があったよな。」
小さいころ、家の事や引っ込み思案で内気な性格のせいか友達のいない少年だった。しかしある日僕の前に突然喜助が現れた。喜助は、宿で誰かに聞いた噂話が本当かどうか確かめに来たそうだ。
急に家にやってきた喜助を初めは不審におもっていたが、喜助と話しているうち、いつの間にか彼の持ち前の明るさに心を開いていた。。
その時の噂がどんな話だったか忘れたがそれ以来、新しい噂話を仕入れると、いつも僕の家に来るのだった。そのうち、自然と喜助と友達になり、気づけば活発な喜助に連れられ村のほかの子たちと遊ぶようになっていた。
「そうだったな。あの時は僕は喜助のこと変な奴だと思ったよ。」
僕は笑いながら隣の喜助の方を見た。
「実はさ、あの時宿の宿泊客に徳の親父さんの仕事の事聞いてさ、なんかお前に共感を持ったんだよ。」
喜助は照れながらつづけた。
「俺もさ、間接的だけどに島に関わる仕事をする家に生まれてきたからか、たまに年上のやつらからいびられて、嫌な思いをすることがあってさ。同じ境遇の徳と友達になりたいって、そう思ったんだよ。」
喜助がこちらを向いた。
「俺は徳のことを一番の友達だと思ってる。だから、子供でいられる最後の年に、忘れられない思い出を作りたかった。だから、賭けなんて手を使って無理やりにでも徳を参加させたかったんだ。」
喜助が急に熱く語ってきたもんだから、僕も照れ臭くなった。
「ありがと、喜助。そういってくれて嬉しいよ。」
僕も喜助のことを親友だと思っていたし、喜助の口からそれが聞けてとてもうれしかった。それと同時に、これから先、今までのように会えなくなるかもしれないと思うととても寂しかった。
「だからと言って鴨葱は奢らないから、徳、お前も真剣にやってくれよな。」
この雰囲気に喜助も照れ臭くなったのか、話題を変えた。
「分かったよ、喜助。僕もがんばってみるよ。鴨葱を奢りたくないしね。」
そのあと、喜助と少しだけ話したところで、玄関から母が顔を出して、夕食ができたことを告げてきた。母は、喜助を夕食に誘ったが喜助はこの後家の手伝いをしないといけないと丁寧に断りすっかり暗くなった道を走って帰っていった。