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不夜知島  作者: 蓮本 丈二
2/12

不夜知島は読んで字の如く夜を知らない。日が落ち始めると同時に島のいたるところで色とりどりの明かりが灯りはじめる。

島は巨大な歓楽街になっており、夜になると島にある様々な店が一斉に明かりを灯し営業を始める。酒呑み処や食事処、賭場、遊郭などありとあらゆる店がこの島にはある。

朝方日が昇り始めるまでこの明かり達は消えることはなく、夜の間島はまるで昼間のように明るく照らされているのだ。夜を知らない島、だから不夜知島。誰が呼び出したかはわからないが、いつからか島は不夜知島と呼ばれるようになったらしい。

島には僕の住む村から橋が架かっていて、夕方から朝方にかけて数本の汽車が通っている。大人たちは仕事が休みになると、汽車を使ってこの島に渡り、朝まで遊び帰ってくる。この村の大人だけではない。隣村の炭鉱夫や、遠くの町の役人もはるばるこの村にやってきて島へと向かう。今日の集会で島には汽車に隠れ乗って入ることに決まっていた。

島には一つ不思議なことがある。宿がないのだ。父に島に宿がない理由を聞いたことがあったが、えらい役人さんが昔にそう決めたらしいとあいまいな返事が返ってきた。僕はそれ以上深くは聞かなかった。島に宿がない代わりに汽車の着くこの村の駅前には何件か旅籠があり、遠くからきた大人はここで宿をとる。

喜助はそれらの中でもとりわけ大きな宿、春眠亭の息子だった。喜助は島のことを泊まりに来たお客さんからいつも聞いているらしく、そこで得た島の噂をよく僕らに披露してくれた。だからか今回の度胸試しでも皆から一目を置かれている。

 喜助の話してくれる噂話はやはり噂話でどれもちっちゃな事実に尾ひれがついていた。それを喜助は知っていて、それをさらに面白おかしく改変し、僕らに聞かせてくれた。例えば島の裏手には巨大な墓地があって夜な夜な死者たちも宴会をしているととか、島に魅入られて廃人になった人たちが収容される牢がどこかにあるとかどれも変な話ばかりだ。

たしかに、たまに島に行ったきり戻ってこなくなった大人もいるらしいがそれは別の理由からだろう。僕は何度か島に入ったことがあった。だけれども、島の裏に墓はないし、廃人になった人を島で見たことは一回もなかった。

でも、喜助の話すそれはとても面白く、僕は大好きだった。


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