始まり
草木の緑は濃くなり、肌を刺すような日差しを少し感じ始めた。風や波の音にかすかに蝉の声がまじりはじめた。僕にとって今年は少年として過ごす最後の夏になる。
僕の住む村には、15歳つまり立志の時に行われる度胸試しがある。村の少年全員が参加するわけではなく、有志が数人集まって毎年行われていた。
今日はその作戦会議のために、村で一番の見晴らしの丘の上の広場に集まっていた。今年の参加者は僕を含め8人いた。地面に座り円になって話し合いをしているその中には幼馴染の喜助の姿もあった。喜助と目が合った。喜助がその場から立ち上がりこちらへむかってきた。僕の隣にきて腰を下ろすと、
「お前も参加するんだな、徳。てっきり参加しないと思ってたよ。」
と小さい声で話しかけてきた。
「お前がけしかけてきたんだろ。そうじゃなきゃ参加してない。」
僕は喜助に向かってそう返した。
実は、前に喜助が度胸試しの結果で賭けをしようと言ってきたのだった。勝った方が駅前のうどん屋の絶品鴨葱うどんを奢る約束だった。
「ちゃんと賭けの件憶えてたんだな。まあ流石の徳でも俺には勝てないだろうから鴨葱うどんはもらったな。」
そう言って喜助は笑っていた。自分でも勝ち目はないとすこし思っていた。この賭けは喜助が少し有利な内容だった。
「よし。じゃあ決行日はこれで決まりや。あとは各々しっかり準備してくれよ。せっかくやし、このまま解散するのももったいない。本番に向けて決意表明していこうや。じゃあ、俺から…」
大体のことは決まり、周りで一番体が大きくガキ大将的位置にいる健が決意表明をし始めたが、僕らはそれにあまり興味もないし日も落ち始めたこともあり、喜助と二人抜け出して家路についた。
丘から下る道の途中、遠くにあの島が見えた。不夜知島。まわりに他の島はなく、青黒い海の真ん中にポツンとしている。島のまわりは潮の流れが激しく遠くからでも島の岩肌に打ちつける波しぶきが見てとれた。
あの島で僕たちは度胸試しをする。
「お、不夜知島が見えるな、徳。来週にはあそこにいると思うとなんだかワクワクしてきたな。」
と喜助は言うが、僕はワクワクというよりも少し不安だった。
「心強いな、喜助は。僕は不安だな。」
「なんで。」
「なんとなく。」
僕は島に父の仕事の手伝いで何度も訪れたことがあったのだが、今回は僕たちだけで、しかも正面から入るのなんて初めてだった。いつもは綺麗に見える明かりの灯りだした不夜知島が今日だけはすこし不気味に見えた。