3:27「俺のために争わないで!?」★
ガレイル→エルナと視点が変わります。
――約十時間前。
「……っつ」
ここは?
オレは確か、キョウスケの娘さんの……エルナちゃん、だったか? あの子とダイヤモンドオークを倒して、それから……。
「記憶が曖昧だ……フォニルガルドラグーンは、どうなった……?」
どうやら頭を強く打ったらしい。
誰かが応急処置はしてくれていたようだが、まだ体中が痛む。
オレはどのくらい意識を失っていたのだろうか。
コロセウムの中には敵らしき気配は何も感じない……全て終わってしまったのだろうか?
キョウスケたちは無事なのだろうか。
「ともかく、行かねば……痛ッ!」
足腰に力を入れようとした途端に、まるで体の芯を貫かれたような強烈な痛みが走る。
まだ自力で立ち上がるのもままならない……しかし。
「このくらい、気合でやりきれ……オレは、あいつに……!」
「ン~、その必要はナッシンだねぇ」
「!? 誰だ!!」
すぐ近くから、男とも女ともつかないような声がした。
確かにここには怪しい気配などしなかったというのに。
きょろきょろと、出来る限り辺りを見渡してみてもそれらしき影は見当たらない。
しかし次の瞬間、ガっと肩を引きずられるような感覚とともに、その声はオレに告げた。
「すこぉ~し来てもらうよぉ。何、悪いようにはしないからノープログレムさぁ」
* * * * * * * * * *
時は既にお昼過ぎ。
ギルドの近くに来てみると、意外にも荒立てたような声は聞こえてこなかった。
不満の表情を示す者は数多くいたが、みな口には出さずにじっとこらえている。しかし気のせいか、怒りのほかにもどこか恐れにも似たようなものが多く見て取れるような?
……何か弱みでも握られてるんじゃないだろうか。
「よ! レガルド来たぞー。ファルはまだ来てねえ?」
そんなムードなどお構いなしに、親父は半壊しているギルドの一階。カウンターの前でスタッフさんと話をしているレガルドの方へと足を運んでいく。
親父の陽気な声でその存在に気が付いた討伐隊の面々は、その不機嫌な表情で親父を睨みつけ……た直後に、何故か後ろで待っている俺たちの方へ視線を移していた。
突き刺さる、殺気にも似た視線の数々に、俺の体はひるみあがる。
「あれがあの英雄の嫁と娘かよ」
「エルフって噂は本当だったんだな」
「しかも二人ともすっげえ美人じゃねえか……」
「爆発しろ……オミワラの野郎だけ」
「娘さん似てねえww」
「あ、おれ娘さん好きだ」
「おれも」
「名前なんて言うのかな」
「なんか疲れも怒りも吹っ飛んだ気がしてきたぞ」
「眼福」
「踏んでください」
……何、この流れ。
殺気のような視線の数々が、一瞬にして別種の……ある意味殺気よりもおぞましいものに変貌していた。
元男としてはその気持ちも分からなくもないが……一旦落ち着け?
そこのお前、拝むな!!
視線のほとんどが俺に向いてる気がするのは気のせいであってほしい!
男にモテる……のは仕方がないのかもしれないが、俺個人としては絶対ごめん被る!! 男の頃は全然もてなかったのに!!! 勘弁してくれ!
……あれ、なんか涙が。
俺が狙われている(?)のを察してか、ミァさんが俺の前に出てにらみを利かせる。
続いて母さんもその隣に立ち、俺を守ろうと……ちょっとまて、なんか様子がおかしい。
「奥様、この『害虫ども』は如何なさいましょうか」
「そぉね~……全員死刑?」
「かしこまりました」
「かしこまるなァ!?」
一体どうしたの二人まで!?
俺のために争わないで!? ほら、討伐隊の人たち怖がってるよ!?
……怖がってるの!?
「お嬢様がそう仰るなら……命拾いしましたね『ゴミ虫ども』。しかし今度私たちが見てる場でお嬢様にそのような目を向けてみなさい」
「み~んな仲良く風にしてあげまーす♪」
「「ヒィ!?!?」」
この討伐隊の人々が上げた恐怖の声の中に、俺の声が混じってたことは言うまでもない。
しかしこの異質な光景。
見た目華奢なミァさんと母さんの二人を前にして、ここに集まるベテラン冒険者たちが揃いも揃って萎縮している。まあ、ミァさんは昔親父と旅をしていたそうだし、その実力と名も知れていそうだからそうおかしくもないのかもしれないが、それにしたって異様な光景だ。
「む……? 親父と旅してたって言えば、ガレイルが見当たらないけど」
放置しておいた身で言うのもなんだが、今この場に彼が来ていてもおかしくはないはずだ。昨日の今日で動けるようになる怪我……だったかは、治療した母さんにしかわからないが。
彼は無事なのだろうか。
べ、別に心配とかそういう訳じゃない。俺たちに対する敵意がもうないのはわかったが、俺からあいつに対する敵意が消えたわけじゃないし。母さんが大丈夫だって言ったんだから大丈夫なんだろうが、あの後に何かあったりしたら後味が悪いというだけだ。
望み薄だが、主催のレガルドとコンタクトをとっている親父なら何か知っているだろうか? ちょっと聞いてみようか。
「待たせたなー、お前たちもこっちに……」
そんなことを考えていると、丁度カウンターの方から親父が戻ってきた。
「何やってんだ?」
「お、親父! これは――」
「エルちゃんに近づこうとするイケナイ子たちに忠告してたのよ!」
「です!」
「そ、そうか」
親父もちょっと引いてますよ。
いやまあ、俺個人としてはそういう目で見られるのは非常に不本意極まりないことなので、ありがたいことはありがたいのだが……やり過ぎには注意して欲しいよね。
「お前らそれなりに発言権もあるんだからほどほどにしとけよ? ……と、そうだった。レガルドから話聞くから、一緒に来てくれ」
「はぁーい」
「かしこまりました」
「親父、その前にちょっといい?」
「ん? なんだ?」
「討伐戦の後、ガレイルどうなったか知らない?」
「ん。そう言われてみれば……ギルドで顔を合わせてから見てないな。……て恵月、会ってたのか!?」
俺を見る親父の顔が驚愕を示すとともに青ざめていく。
思えば確かに、ガレイルと会ったことは親父に伝えていない。少し悪いことしたかな? ……いや、自業自得か。俺たちが来ないと思ってたのをいいことに伝えなかったのが悪いのだ。
まあ母さんはともかく、俺は今更そんなに気にしてもいないが。しても仕方ないし。
「そっか言ってなかったんだっけ。あいつがギルドに行く前に会ったし、コロセウムでは俺が助けたよ」
「何? 助けたって……いや、その……悪いことしちまったな……それは……」
「もう気にしてないよ。あとで説明してくれればそれでいい」
「……本当に、すまん。絶対に説明するよ。コロセウム内部の後始末もレガルドが指揮してたはずだ、ちょっと聞いてみるか」
「うん、お願い」
* * * * * * * * * *
「――というわけで、キョウスケ殿たちの報酬から100万Gずつ引かせてもらった。緊急依頼の無断参加および幇助……冒険者受注法第二条四項だな」
「ご迷惑おかけしました……」
「した……」
「うむ、これは命にもかかわることだ。今回は誰も死ななかったからいいが、今後は絶対に気を付けるように――しかしそれを踏まえて一つ提案がある」
「な、何ですか……?」
「体罰ならエルちゃんじゃなくてわたしが……」
「そんなことはせん。冒険者ギルドへ加入してはくれないかね?」
「「え?」」
「れ、レガルド!? 話が違うぞ!?」
カウンターでレガルドさんが話したことは、主に俺と母さんへの注意……と見せかけた、冒険者ギルド加入への勧誘。
ファルがまだギルドに来ていない為、先にその辺の違反への忠告をと親父は聞いていたらしいが、蓋を開けてみるとこのありさまだった。
元々俺たち二人はギルドから目をつけられていたため、弱みを握った今は絶好のチャンスと見たのだろう。
俺は初めてギルドを見て興奮したし、ゲーマーだった手前冒険者と言うものには結構興味あったりするのだが……。
「ダメだ! お前たちを危険な目に会わせるわけにはいかない」
「デスヨネー」
それからと言うものの、俺たちが冒険者になることをよく思っていない親父が猛反発を繰り返し、暴力沙汰にまでなりかけた。
親父とレガルドが喧嘩を始めたらギルドどころか王都が半壊しかねないと、ギルドにいる冒険者たちまで総出で止めに入ったりそれはもう大変なことに……。
しかしそんなこんなで三時間、結局名前だけでもと言うことになり、俺と母さんは冒険者ギルドに加入することになってしまったのだった。
ちなみにレガルドもガレイルのことは見ていないらしい。
最後の方切りよくしようとしたら長くなりそうだったので畳みかけてしまいました。
ギルド登録以外はそこまで大事なことでもないのでどうかお許しを。
お読みいただきありがとうございます。
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