3:18「フォニルガルドラグーン討伐戦 3」
痛い……思ってた以上に痛いよこれ……!
今までこんなに本気で殴ったことなんてなかったと思うけど……ウロコが硬いせいなのも大分あるよね?
必死に、杖だけは手放さないようにしながら右手で左拳を抑える。
前傾姿勢で痛みに耐えようとするその姿は、まるで股間を蹴られたかのような……はたから見てみればとても哀れな姿だろう。
……もうついてないけど。
「あー……つッ……ぁぁ」
(い、痛くて体まで動かない……)
っていうか、別にわざわざ殴る必要なかったんじゃ……それこそ近づくだけ近づいてちょっと火の玉でもぶつけてやればよかったのでは?
「お、俺の……バカぁ……!」
杖に溜め込んでた魔力も今ので半分近く飛んでしまった。
本当バカとしか言いようがない。
ああ、涙出てきた。
「おい!!」
え? ……親父?
何!!
今それどころじゃないんだけど!!
「恵月!! 上!!!」
「ふぇ……」
言われて初めて、目の前の……コロセウムの地面が夕焼け色に光を反射しているのに気が付く。
見上げてみれば案の定。これまた前傾姿勢になり両手を上げ、俺の方へ顔を向けたフォニルガルドラグーンさんが、大きく開いた口に炎の玉を作りながら出迎えてくれた。
(あ……しまった……)
ああ、まさに今にも火ィ吹くぞと言った感じだ。
逃げようにも走れなさそうだし、この距離ではいくら耐性があるとはいえ絶対タダでは済まない。
後悔してもしきれない。
まさかこんなことで絶体絶命の危機を迎えることになろうとは。
目の前でドンドンと力が濃縮されていく炎の塊を前に痛みは忘れるが為す術はなく……。
次の瞬間、視界が赤い光に飲み込まれると同時にぎゅっと目を瞑った。
* * * * * * * * * *
「っ……あれ」
なんともない?
生きてる?
痛くも痒くも……ついでに熱くもない。俺の炎耐性そんなにすごいの……?
いやでも、なんか足が浮いてる……ていうか、誰かに抱きかかえられてるような?
ということは……。
そんな緊張感のかけらもないことを頭に浮かべながら瞑っていたまぶたを動かす。
するとそこには――
「あれじゃねえ!! なんてマネしてやがんだお前は!!!」
「お、親父……」
どうやら寸でのところで親父が助けてくれたらしい。
いつもだったら今の姿勢……お姫様抱っこをされているところに苦言を呈するところだったが、流石にそんな気にはなれない。……今のは本当に申し訳ない。
「……ごめん」
「これがごめんで済むか! 死ぬところだったんだぞ!?」
「ぅぅ……」
ぐうの音も出ません、ホント。
「つっ……あーもう、とりあえず離れるからな」
「ぅん」
親父はそう言うと、俺を抱きかかえたままドラゴンから遠ざかる。
先までの攻撃からやはり俺を狙っているのは分かっていたらしく、母さんがいる方へは行かずに三時の方向へ足を走らせていた。
その最中もドラゴンの火球攻撃は不定期に続いていたが、親父は難無くこれを避けながら端の方までたどり着いた。本当に、人一人を抱きかかえているとは思えない身のこなしだったが、親父の身体能力がすごいのか俺が軽すぎるのか……そして何気なくついてきているのの。
出会ってからこれまで息ひとつ切らさないこの子も一体何者なのか。
しばらくしてドラゴンの攻撃がやむと、親父はその場に俺を降ろして深いため息をついた。
「ったく……」
「えるにゃん、むぼー」
「ごめん……ほんと、ごめん……なさい」
頭が上がりません……。
「あー……頭上げろ。別に怒ってるわけじゃねぇよ」
「へ……?」
思わぬ言葉を受け、少しばかりきょとんとしてしまう。
少し間をおいて言われた通りに顔を上げると、怒りというか、どちらかと言えば困り顔の親父が俺のことをじっと見ていた。
「まー、まったく怒ってねえわけじゃねえけどよ……お前が考えなしに突っ込むような奴じゃねえことくらいわかってる」
「親父……」
後頭部をかきながら照れくさそうにそこまで言うと、親父はちらりとドラゴンの方を見てから話を続けた。
「でだ。そいつは奴さんが頑なにお前ばっかり狙うのと……何か関係あるのか」
「かー」
「う、うん……多分」
「たぶん?」
「確信はないんだ。だから、その……半分賭けというか」
半分どころか八分くらい賭けだが。
一応、先ほどの一連の行動から全く情報を引き出せなかったわけではない。
まず一つ。
俺からドラゴンに触れられないわけではないということ。しかし相変わらずドラゴンの方は俺に直接攻撃を仕掛けようとはしなかった。
あの至近距離ならどう考えてもブレスより直接殴りかかった方が効果があるだろう。あの巨体に王様と呼ばれるだけの存在ならば、それだけでも十分に俺の体など粉砕できるはずだ。
なのにヤツはブレスを使った。しかもわざわざ両手を俺から遠ざけてだ。直接俺を触ることができないのかはわからないが、絶対に何かがあるのはもう間違いないだろう。
二つ。
距離が近ければ近いほど、ヤツの攻撃頻度が高かった。
これは明らかに俺のことを拒絶していると言っていいほどに。現に母さんの元を離れ、走って近づいて行ったとたんに立て続けに攻撃してきたし、親父に端へと連れてこられた今は驚くほどに静か……まるで眠ってしまったのではないかと言うほどに。
もちろんこれだけの情報ではまだ何も掴むことはできない。
俺とヤツになにか因縁でもあるのか、はたまた一方的に俺に何かを感じ取っているのか。討伐隊の人たちを吸収してまでパワーアップしたのにもかかわらず、その力をどうして振るわないのか。
あまりに不明瞭な点が多すぎる。
「…………」
親父が腕を抱え、悩むようなしぐさを見せる。
俺としてはもう一度行かせてほしいところなのだが……何故かはわからないが今度こそ、決定的な何かを見出せる気がするのだ。
もう一度……あのドラゴンの『目を見て』確かめたい。
でも―――。
「わかった。恵月、お前に賭けよう」
「…………!?!?」
親父が頭を悩ませてからはほんの数秒程度の間だった。
あまりにもすんなりと受け入れてくれた親父に俺はまたもや困惑の色を隠せないでいるが、そんな俺を置いて親父は言葉を続ける。
「どの道俺たちじゃ小さい傷をつけるのが精いっぱいだ。そのうえつけた傷もすぐにふさがっちまう。正直なところ、悔しいが俺たちじゃ力になれそうもねぇ。つっても、最大限お前を守ってやれるようには努めるが……どうだ、もう一度……やれるか?」
心なしか、そう俺に問いかけてくる親父の姿が一回り大きく見えた気がした。
思えばこれも……初めての事なのではないだろうか。
今までの親父は俺たちを頼るということをしてこなかった。俺たちを守ると、ただそれだけの一方通行だった。それがこのドラゴン戦で初めて、俺に手を差し伸べてきたのだ……「一緒に戦ってくれ」と。
自分の成長を認めてもらえたような気がして、少し誇らしさを覚えている自分がいた。
精一杯、その期待に応えようじゃないか。
「うん。やらせて欲しい」
「よっしゃ! それでこそオレの娘だ!」
俺が親父の顔を見て言うと、やんちゃ坊主のように無邪気な笑みを見せる親父が俺の頭を乱暴に撫でまわす。
明らかに子供の頭を撫でているという親父の行動にさっきまでの誇らしさが一気に消え失せ、視線を逸らしながらぼそっと苦言を呈した。
「……娘って言うな」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない!!! あと頭わしゃわしゃするなよ!」
「おー、スマンスマン。そうだな……お前ももう、子供じゃねえんだもんな」
「!!」
俺の頭から親父の手が放れた直後に言われた言葉。
そこには少しばかり哀愁が漂っていた気がしたが、言葉を受けた俺の心には、ふつふつと湧き上がる何かを感じていた。
……ちょろいとでも何とでも言えばいい。俺もちょろすぎると思う。
「さ! そうと決まればモタモタしてる時間もねえ、リベンジマッチだ。行くぜ恵月、のーのちゃん!!!」
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